27.あさはかな決断

初めての恋は、激しい恋だった。

最初、この想いは勘違いだと思った。

でも、違った。
勘違いなんかじゃなかった。

雛子のことが、好きだった。

女同士の恋愛なんて
許されないと思っていた。

実際、世間はいまでも同性愛に易しくはない。

だから美耶は告げられなかった。

あるいは、それが
普通の世の中であったとしても、
告げることは叶わなかっただろう。

彼女が、
美耶の継母という地位に納まった時点で。
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エピローグ 1 

例えば運命の人というものがいるとして。
約100年の人生の中で、その運命の人に出逢える可能性というのはどれほどの確率の出来事なのだろう。

もし出逢えたとして、その人と想いが通じ合うというのはどれほどの奇跡なのだろう。
運命の人。私の運命の人。

夏の青空のように闊達な笑顔。
涼やかな鈴音のように弾む清音。
短く整った爪、毛先の湿ったショート・ヘア。
あまり膨らんでいない胸と、くびれたウエスト。細い腰、すらりと長い手足、機敏な動き。
炎のような情熱を宿した瞳。

私の友人であり、師であり、姉であり、そして母であったひと。

私の全てを愛し、慈しみ、でもたぶん、受け入れてはくれなかった、やさしいひと。

その名を呼ぶたびに、私の胸は愛しさと痛みに灼かれていた――――。

 

約100年の人生の中で、運命の人と出逢い、想いを募らせ、通じ合い、その、奇跡。
愛の結晶を残せるのなら、その子の存在こそふたりの愛の軌跡に違いない。

では、遺せなければ?

残せなければ、そのひとたちの愛はなかったことになるのだろうか。彼らの中にだけ記憶され、
彼らが消えれば育んだその愛も消え失せてしまうのだろうか。

 

いいやきっと、誰かが覚えていてくれる。
祖父母の写真、父母の映像、知りもしない遠い親戚の結納、たまたま行き逢った結婚式。
見知らぬ誰かがきっと、覚えていてくれるから、だから愛は永遠を生きられる。
では、秘めた愛はどうであろう。

 

誰にも知られず、想い人にさえ知られず、この胸のうちに抱く愛は、私が憶えていなければいずれは消えてなくなってしまうのだろうか。
世界で一番強い力。この世でもっとも尊い誓い。人にだけ許された罪。愛とは、人の間で交わされぬだけで、こんなにも果敢なくなるものなのだろうか。
出逢い、募らせ、通じ合わぬ、そんなよくある話に隠された、それでも真摯だった想いは、実を結ばぬままに朽ち果て水底へと沈んでゆく。
他のよくある話の主人公たちは、次の愛を探して進むのだろう。進む勇気があるのだろう。
自分が女で、相手が男という、それだけで。
人は愛を探している。想いを通わせ肌を合わせ実を結ぶために。

ならば、そもそも実をつけられない私に、人を愛する資格などあるのだろうか。
通じなかった想いはどこへゆくのだろう。
胸のうちに秘めたまま、深いところへ沈んで凝って眠りに就くのだろう。
いずれ眠った恋が結晶化して、宝石のように私を飾るのだろう。
抱える傷が深いほど、重いほど、きっと私はうつくしくなる。
ならば、いまは、熱も、痛みも抱きしめて――――この恋、眠ろう。