25.闇に夜

暗い部屋の中で、
美耶は膝を抱えて泣いていた。

もうなにも考えたくない。
なにも考えられない。

二度目の母親の死を、
初恋の人のを経験して、
美耶の思考はついに止まってしまった。
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左様なら、私のはつこいよ 30

大学に通っているうちにいくつかのヒット作を生み出した美耶は、就職するか悩んでいたものの、結局作家に専念することにしていた。

さいわいにも貯蓄はそれなりにあったし、なにより最近は官能小説以外の仕事も多い。
ネットのコラムや雑誌にも連載を持っていた。

これから先、作家で食べていけるという自信と、書き続けるという決意に、両親はなにも言わずにただ頷いてくれた。
もちろん、美耶は二人に著作を見せるという愚行を犯すことはなかったし、ペンネームがばれないように周囲の誰にも、己の職業を知らせることはなかった。
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チャンスなの 28

二週間後の日曜日、美耶の今後の進路のめどがついた頃に札木家のチャイムが鳴った。

訪問者についてあらかじめ伝えておいたとはいえ、瑛一郎と雛子は、やはりというか――驚いていた。
美耶が小説を書いたということ、そしてそれを出版社に送り、それを出版したいと言われていたことにだ。

出版については松元が家まで出向き、両親に話をしてくれることになったのだ。
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