帝国(10)|箱庭の国

濃いピンク色のLのような形をしたおもちゃを、瑠璃が取り出した。いくつか持っているバイブと同じ、スワンシリーズ、カナダから輸入された双頭バイブで、名前はエターナル。本当に、いい名前だ。二人にとっては皮肉が逆に望みにすら感じられる。

スイッチを入れると、低いバイブの音が耳に届いた。L字の短い部分の先端、卵型をした場所を、瑠璃が自分の秘部に押し当てる。
「ん、くぅ」

膝立ちのまま、瑠璃はそれを自分の中に収めた。白い下腹部からは、濃いピンクのバイブが、まるでそそり立つペニスのようにして生えている。

まさに、生えているという表現がぴったりだ。L字の片方を体内に収めると、まるでペニスが生えているように見えるのがこのおもちゃの売り。女の子同士でも感じ合いながら、セックスできる。抱き合える、夢のような商品で、だからこそ二人とも欲しくなったのだ。
「いれるわよ」

掠れた声で、瑠璃が告げた。
「い、れて」

潤んだ声で、ひよりが応えた。
「んっ」
「あ、ああぁ」

シリコンのすべらかな触感。強く振動しているものが、中に潜り込んでくる。
「はあ……ひより……」

瑠璃が体を倒し、ぎこちなく腰を動かす。触れ合った肌が熱い。
「あっ、あっ」

快はさほど強くない。けれど、これには何物にも代え難い悦びがある。
「ひより、すきよ」
「アッ」

ぞくぞくとした快感が腰から脊髄を通り、脳に達する。ぶわわっと麻薬のようなものが分泌されるのが分かった。思考がピンクに染まる。
(ああ、)

だめだ。離れられない。

瑠璃と離れられない。

このぬくもりを、手放せるわけがない。

「るり」
「ひより」
「瑠璃、考えよう」

誰かを不幸にしたっていい。嘘をついたっていい。何年掛かったっていい。

ずっと、一緒にいる方法を考えよう。

「いつまでも」
誓いのキスは密やかに。

 

これは、箱庭の中でだけ存在する物語。

あるいは、シュレーディンガーの猫箱

それは、外界からはけして覗き見えない、花園に降る驟雨の隙間を縫って行われる茶会。

円舞を踊り続ける少女たちの物語。

【数年後、藤ノ条グループと狛桐グループは新分野の開拓にあたり、業務提携することを発表した。これには、両家当主が学生時代の級友であったことが大きな要因であるとされている。夫を得てなお二人は仲の好い友人同士であり、しばしば休日を共に過ごすところを目撃されている。】

その帝国はいつまでも朽ちずにそこにある。誰かが箱を開けない限り、ひみつは永遠に続く。

秘密の花園 (7)|女子同士

himitunohanazono7「仲良く?貴女と?」
ひよりの下で、瑠璃の瞳が妖しく輝る。

「意味が分かって言っているの?」

「わ、分かってるわ」
ひよりは頷いた。

 

脅すような真似までして手に入れた友情なんて意味のないものだ。

分かっていても、
口から出てしまったのだからしょうがない。
ひよりは、友達が欲しかった。
“秘密の花園 (7)|女子同士” の続きを読む

25.闇に夜

暗い部屋の中で、
美耶は膝を抱えて泣いていた。

もうなにも考えたくない。
なにも考えられない。

二度目の母親の死を、
初恋の人のを経験して、
美耶の思考はついに止まってしまった。
“25.闇に夜” の続きを読む