秘密の花園 (1)|桜花満開

hanazono1まるで一年生のようだ。

引越しが終わったばかりの寮の部屋。

姿見に映る見慣れない自分の姿に、
狛桐ひよりは小さく嘆息した。

金エンブレムの深緑のブレザー。
同じ色のスカートには
淡い緑と黄でチェック模様が施してあり、
腰まわりはタイトだが太ももの辺りで
切り替えがあって、そこから下はプリーツを作っている。

この制服を身に着けているだけで、
近隣校の生徒から憧憬と
羨望の眼差しで見られる。

たとえそれがひよりであったとしても。
ああ、あれがお嬢様か、と。
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出版の件 26

秋晴れの十月も終わろうとしていた。

昼間に都心の繁華街を制服姿で歩く美耶を、男たちや、たまに女がちらちらと見る。
約束の時間まで少しあったのでゲームセンターに入ったら補導員に捕まったけれど、就職試験を受けてきたところだと言って学生証を見せたら、気持ちも分かるけど寄り道しないで早めに学校に帰りなさいと注意されるだけで終わった。

うちの学校は直帰でいいんですと言うのもめんどうなので素直に頷き、時間には少し早かったけれど待ち合わせ場所の犬の銅像の前に向かう。
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待っててね 9

栗毛色の髪がふわりと揺れる。
夏の熱気は日が落ちても引ききらなくて、少女はこめかみを流れる汗を手の甲で拭った。
学校からの帰り道ではあるけれど、通りがけにベーカリーを覗くと、そこはもう閉まっていた。母は家に帰っているのだろう。

もやもやとした得体の知れない感情を抱えながら、少女は自宅の方角へと足を向けた。
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