19.女と母

あらかた箱根観光も済ませ、
後はのんびり帰るだけとなった三日目は、
朝から雨だった。

一日目の夜から二日目の明け方にかけて
降ったらしいにわか雨とは違う、
しとしとと降り続ける水滴は、
絹糸のような細さでもって箱根の山々を煙らせた。

それを眺めながら、
日菜子はぼんやりと息を吐く。

部屋の中には日菜子しかいない。

美耶は大風呂へ行ってしまった。

チェックアウトまで時間があったので、
もう一度箱根を楽しもうという魂胆なのだ。
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6. 舌で悶える

furuetenemure-6指を差し込んで、少し奥、上のほう。

何度か反応を見てみたけれど、
美耶は子宮口よりもGスポットのほうが好きみたいだった。

いつものディルドで奥を突くと、少し痛がる。

カリでGスポットのあたりを引っ掛けると盛大に喘いだ。

日菜子とは反対だ。
日菜子は奥のほうが好き。

Gスポットを弄られるのも嫌いじゃないけれど、
奥をがんがん突かれるのほうが感じる。

そのあたりは、美耶と日菜子の
男性経験の違いから来るものなのかもしれなかった。
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7はじめてのひと、とキス

二人して、向かい合って肌を合わせて抱きしめ合って、触れるだけのキスをした。

「美耶、男の人としたことある?」
「ないよ」

ちゅ、と音を立ててキスをしながら、美耶は続けた。

「ひなちゃんだけ。ひなちゃんがはじめてのひと」

キスの合間に囁いた。半ば察していたことではあるものの、美耶が処女だったという事実に、日菜子は上気した頬に喜色を浮かべる。
べつに初物趣味ではない。けれど、この肌に触れたのが、この貌を見たのが、この匂いを味を感触を声を全てを、美耶の全てを知ったのが日菜子だけだという、その事実が、こんなにも日菜子の心を揺さぶる。

おもちゃは使ってたけど、と恥ずかしげに美耶は囁いた。
いいわよ。それくらい許してあげる。

「ひなちゃんは?」

日菜子の胸をやんわりと揉みながら美耶が尋ねた。

「一応」
「……あるの?」
「うん」
「へええ」
「んぅっ」

凝った乳首を押し潰されて、ひくりと背筋が震える。全裸で、ベッドにぺたりとお尻を着けた座り方では、すぐにシーツに染みが出来てしまうだろう。意識して腰を動かすと、さらりとした布目が日菜子の花びらを刺激した。

「ひなちゃんいやらしい」

気付いた美耶にからかう口調で言われ、頬が朱に染まる。
熱い唇が日菜子の鎖骨の辺りに吸い付き、鮮やかな真紅の花弁を散らす。白い肌に咲いた執着と征服の証に、下腹が疼いた。
キスマークをひとつひとつ指先でなぞりながら、美耶がぽつりと呟く。

「――――あたしが、日菜子のはじめてのひとに、なりたかった」

 

存外真面目な声で言われ、思わずその顔を見詰める。真摯な眼差しに、熱情が篭っている。それはたぶん、この日菜子の瞳にも。
二人の関係はずっとずっと、出逢った瞬間から曖昧で、それは親友のようでもあったし、飼い主とペットのようでもあったし、姉妹のようでもあったし、あるいはやはり、恋人のようでもあった。

独占欲と愛着と思慕と恋情は、根底に流れるものに差異はないから、はっきりとした関係になれないのはしかたがないと思っていた。体の関係から始まった。だからもう、とりかえしがつかないのだと。どんなに美耶のことが好きでも、恋しく思っても、きっといつまでも二人は曖昧な関係から抜け出せないのだと。
少なくとも日菜子はそう思っていた。
でも、美耶は。

「私……美耶が好き。美耶は?」
「あたしも、ひなちゃんのことが好きだよ」
「ほんとうに?」
「本当に」
「それは…………どういう意味で?」

すい、と近寄ってきた顔が、ぼやける。

「こういう、意味で」

スローモーションで唇が重なる。キスされた。もう何回もしてきた行為なのに、このときばかりは孕んでいる意味が違う。
否、きっとずっと同じだった。二人で同じ感情を抱えてくちづけて、なのに心は擦れ違っていた。こんなにも、求めているのに。
きっと、ひとめぼれだった。

「美耶、みや……」

縋りつくように、その唇に吸い付く。どんな果実よりも柔らかで甘い美耶の唇。重ねて日菜子は嘯く。

「美耶が、私のはじめてのひとだ」