1.日曜日のキス|Not used to Love

not1日曜の昼前、あっ、と短く叫ぶ声が1LDKの部屋に響いた。
ソファーでテレビを見ていた莉南子は、キッチンへ視線を移した。
ミネラルウォーターのボトルを持った詩乃と目が合う。

「こぼしちゃった」

顎からぽたりと水が滴った。ロングTシャツにも染みが広がる。口を付けずにボトルの水を飲もうとしたらしい。

「コップを使いなさいよ」

莉南子はキッチンに立ち、ティッシュで床を拭いた。

「ないもん」

詩乃がシンクを目で指す。
平日に使ったグラスが溜まっている。

「マグカップあるでしょ」

「冷たいのはグラスなの」

詩乃の変なこだわりに慣れたのは、いつだったか。
莉南子は八つ年下の恋人に苦笑しながら、そうだったねと返した。

「怒った?」

年齢は大人の癖に、詩乃は子供の目をする。
この瞳にはまだ慣れない。

儚く揺れる瞳。
庇護欲と支配欲に触れる瞳。

「怒ってないよ。これ洗おう」

莉南子は柔らかく言って、詩乃のTシャツを脱がせた。
初夏の日差しが白い裸を照らす。

「可愛いおっぱい

「んっ…だめ…したくなる」

小さめの乳房にキスを受けた詩乃が甘く喘ぐ。

「昨日、あんなにしたのに?」

胸の先を弄びながら、莉南子は熱い耳に囁いた。

「したいの?」

「した、ぃ…っ…」

莉南子は返事を遮るように、桃色の唇に接吻けた。
舌を絡めれば、敏感な体が震える。

キッチンの壁に華奢な体を追いつめ、莉南子は長くキスをした。

「んぅ…ここで、するの?」

詩乃の言葉には隠せない期待が滲んでいる。
莉南子は白い太ももを抱え上げた。

「ひああ…!」

前触れなく差し込んだ指を、詩乃の内側は拒まない。
昨夜の蜜が充分に残っているから。

「あ、ぁん、りなこぉ…」

甘く自分を呼ぶ恋人に、莉南子は指で応えた。

奥で少し指を曲げて、ぐちゅぐちゅと混ぜる。
詩乃は呆気なく絶頂を迎えた。

「のど渇いた」

詩乃がソファーに身を投げ出す。

「はいはい」

莉南子はマグカップに水を注ぎ、口移しで水を飲ませてやった。

「もっと、飲む」

詩乃が水をねだる。
グラスだけでも洗わなくては。

莉南子は思いながら、唇を重ねた。

2.水曜日の鞭|Not used to Love

『もうすぐ終わるから。いいコで待ってて』

会社の休憩室。
莉南子からのメールに詩乃は溜息を吐いた。
水曜はノー残業デーなのに、莉南子の部署は平気で残業をする。

「詩乃ちゃん、また莉南子さん待ち?」

二回目の溜息を吐いた詩乃に、同じ部署の男性社員が声をかけてきた。
同居は周知の事実だから、詮索も少なくない。
詩乃はそっと身構えた。

「はい。残業みたいです」

「二階は忙しいから。てか、二人、本当に仲いいね」

ほら来た、と思いながら詩乃は薄く笑った。

「莉南子さん、面倒見いいから甘えちゃうんですよ」

関係を隠すためじゃなく、面倒を避けるために言わない。
莉南子との約束。

「あ、これ見てくださいよ。可愛くないですか」

詩乃は話を変えるために、自分のスマホを男性社員に差し出した。

「コンビニの猫?」

体の距離が近くなるが、詩乃はなんとも思わない。

「詩乃、ごめん。遅くなって」

莉南子が来たのは、二人がスマホを覗いている時だった。

「平気ですよ。ノザキさんが構ってくれたし」

詩乃はにこりと男性社員に微笑んだ。
周りの判断を濁すために。

家路を辿る電車。
いつもと違って、今日は無言が続く。

詩乃は莉南子の不機嫌を察した。
不安と同時に淫らな期待が湧き上がる。

「男に色目を使う悪いコには、お仕置きが必要だね」

1LDKの部屋に帰り着き、やっと莉南子が口を開いた。

「ベッドに手をつきなさい」

「はい……」

従順を強いられ、詩乃の瞳と内側が潤んだ。
ピンクの乗馬鞭を持つ手が見え、詩乃の呼吸は乱れる。

「濡れてる。本当に詩乃は悪いコだね」

乱暴に服と下着を剥いだ莉南子が、期待に濡れた恥花を弄んだ。

「…ごめん、なさい」

「他に謝ることあるよね」

「ひあっ!」

ぴしっと音が鳴り、柔丘に鞭が当たった。
鋭い痛みを詩乃の体は快感として受け入れる。

「あぁ…職場の人に、色目を使ってごめんなさっ…」

謝っても、鞭は止まらない。

「詩乃は誰のもの?」

「ぅ、あ、莉南子のものですぅ…」

詩乃は被虐の悦楽に沈んだ。

3.金曜日の玩具|Not used to Love

not3金曜日の夜。
詩乃の手料理を食べ、テレビを見る時間が莉南子は好きだ。
ささくれていた頭の中が穏やかになっていく。

「詩乃、眠い?」

莉南子は膝枕の上の詩乃の髪を撫でた。
さっきから口数が少ない。

「眠くない」

でも、と詩乃が言葉を継ぐ。

「したい」

誘惑とおねだりを同時にやってのける瞳に、莉南子は欲情した。

「ベッドに行こうか」

リビングとは引き戸で仕切られた狭い寝室。
セミダブルのベッドは二人だけの世界。

「しのっ……ゆっくり……」

性急なキスを咎めても、詩乃は止まらない。

「んんっ……あっ……」

莉南子は詩乃の唇や舌を噛んでやった。
快感と痛み。
ワガママな恋人を支配するには両方が必要だ。

「もう、濡らしてる」

下着に染みた秘蜜の量は多く、詩乃の淫らさを伝えた。

「何が欲しい?」

莉南子の言葉に、詩乃の呼吸が乱れる。

「ぁ……オモチャがいい」

「どの?」

そういうオモチャは幾つか買ってある。
詩乃を満足させるために。

「ん、ぎゅって、できる方……」

詩乃がねだったのは、ペニバンだった。

「詩乃はいやらしいね」

莉南子はベッドサイドの棚から、ハーネスを取り出し身に着けた。
細めの黒いディルドをリングに通すと、自分が残酷な支配者になった気分になる。

嗜虐と奉仕が混ざり合う行為は、詩乃との間だけにしか成立しない。
莉南子は念のためのコンドームをディルドに被せてから、詩乃の脚を開いた。

「いれるよ」

角度を確かめながら、莉南子が腰を沈めていく。
詩乃の口から高い悲鳴が漏れた。

「ぎゅって、して」

莉南子は華奢な体を強く抱きしめた。
優しい抱擁とは真逆の律動も始める。
詩乃が言葉にならない嬌声を上げた。

繋がった場所からも、卑猥な水音が漏れる。

「こうされたかったの?」

「はぃ……ぅあ、りなこっ……」

背中にしがみつく手の熱さに煽られるまま、莉南子は秘花を穿ち続けた。

「もっと、気持ちよくなって」

詩乃の反応がいい場所を狙って、莉南子は腰を打ちつけた。

「そこダメぇ!……っああ!!」

莉南子は両腕の中で達する恋人を、永遠に抱きしめていようと思った。

4.火曜日の真珠|Not used to Love

not4「詩乃、これ穿いて」

火曜日の朝。着替えていたら、莉南子が下着を差し出した。
オフィスに向かない、細いTバック。
しかも、クロッチ部分はパールだけ。

「こんなのじゃ、仕事できない」

当然の抗議は、莉南子の耳に届かない。
無言で跪き、下着を穿かせようとする。

詩乃は仕方なく足を上げた。
布が太ももを撫でる感覚に、体が反応してしまう。

「昨日また、色目を使った罰だから」

「はい……」

詩乃は甘んじて罰を受け入れた。
しかし、パソコンのキーボードを叩きながら、詩乃は戸惑った。

想像以上の違和感。
パールが花芯に触れる度にもどかしい。

「詩乃、大丈夫?食欲ない?」

昼休み、莉南子が意地悪く尋ねた。
休憩室で具体的なことを言う訳にもいかず、詩乃は縋るような目を向けるしかない。

「我慢できたら、ご褒美あげる」

ご褒美、という言葉に詩乃の内側が潤む。
ストッキングもショートパンツも汚れたのが分かった。

「我慢したよ」

詩乃は部屋に帰り着いてすぐ、服を脱ぎパールの下着を莉南子に見せた。

「いいコだったね。ご褒美あげる」

莉南子が蜜に濡れたパールを、満足そうに指でなぞって笑う。

「舐めていいよ」

ソファーに座った莉南子は、スカートやストッキングを脱いだ。

詩乃が素早く脚の間に座る。
熱を放つ秘花に舌を伸ばすと、頭上から甘い呻きが降った。

「はぁ、美味しいっ……」

「……上手だね」

尖りきった淫核を舌で捏ね回し、顔中に蜜を浴びるのが詩乃は好きだ。

「あぁ、しのっ……いくよ!!」

莉南子が詩乃の頭を押さえつけながら、腰を揺らした。
詩乃はこの瞬間の息苦しさに、快楽を覚える。

「舐めただけで、そんなに感じて」

達した後の莉南子よりも詩乃の呼吸の方が荒かった。

「はしたないコには、お仕置きしなきゃ」

立ちなさい、という命令に従い、詩乃がその場に立つ。

ご褒美より、お仕置きの方がうれしいんでしょう?」

「……はい」

何もかもを知る指が、パールをずらして秘花に侵入する。
詩乃は恋人に支配される心地よさに、全身を委ねた。

5.土曜日の首輪|Not used to Love

not5土曜日の朝。
黒い首輪をつけたまま隣で眠る詩乃に、莉南子は触れるだけのキスをした。

休日の前夜は激しく抱いてしまう。
詩乃の肌には鞭の痕や紐の痕が幾つもあった。
シーツもローションや二人の蜜で汚れている。

洗濯をする前に、他の家事を済ませようと莉南子はベッドを出た。
溜まった食器を洗い終えた時、詩乃がふらふらとキッチンに歩いてきた。

「起こしちゃった?」

詩乃は返事もせず、莉南子にぎゅっと抱きついた。

「莉南子がいなかった」

泣きそうな声。

「ごめん。びっくりしたね」

こくりと頷く頭を、莉南子は優しく撫でる。

「大丈夫。どこにも行かないよ」

何が不安なのか、詩乃は時々こうなる。

「詩乃を置いていったりしないから」

落ち着くまで抱きしめてやらないと、詩乃の瞳は悲しさで曇ってしまう。

「詩乃はずっと、私のものだよ」

「うん……」

しがみつくような抱擁を受け入れたまま、莉南子はキスをした。
唇や頬はもちろん、額や鼻の頭、涙を薄く刷いた瞼にもキスを降らせる。

莉南子は詩乃の体から、少しずつ強張りがとれていくのを感じた。
心の底からほっとする瞬間。

恋人を悲しませる時間なんて、一秒もない方がいい。

「朝ご飯、食べようか」

タイミングを見計らって言うと、詩乃が淡い笑顔を浮かべた。

「ホットケーキ、作りたい」

甘える顔が愛しくて、莉南子も自然と笑う。

「いいよ。一緒に作ろう」

「食べたら何する?」

すっかり元気になった詩乃が首を傾げた。

「洗濯。詩乃のせいでシーツが汚れたから」

耳元で囁けば、首輪の下の項がうっすらと朱を帯びる。

「洗ってる間、リードに繋いでてあげるね」

詩乃の孤独や欲望、いや、あらゆる感情を飼い慣らせるのは、自分だけ。
莉南子はそっと、詩乃の首輪を撫でた。