驟雨の隙間 (1)|秘書とは

shuu1「ねえ、わたくしの秘書になって頂戴」
少し高慢な、女王様然とした口調で彼女――藤ノ条瑠璃はそう言った。
聖母と慕われているはずの学年一の美女の、本性がそれだ。

 

クラスメイトが聞いたら腰を抜かすであろう口調に、しかしひよりは慣れたものと言わんばかりに読んでいた漫画を閉じた。
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驟雨の隙間 (3)|幻想物語

この学園は全寮制で、敷地内に大きな寮がある。だけれど、生徒たちの登校時間はまちまちだ。部活や委員会などで朝早い生徒もいれば、なにもないので遅い生徒もいる。ひよりもいつもならば後者だった。

「ごきげんよう狛桐さん」

「ごきげんよう」

「ごきげんよう、今日はなんだか早いみたい」

小鳥たちの挨拶に、ひよりは読んでいた本を閉じて顔を上げた。

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驟雨の隙間 (4)|なかよし

「今日の夜は瑠璃の部屋行けないから」

ほわほわたまごの親子丼を食べながら、ひよりは彼女にそう告げた。

 

 

庶民でも知っているメニューがあるところが、寮の食堂のいいところだよなあと、ひよりはのんきにそんなことを考えていた。

つい数ヶ月前まで一般庶民だったのだから、ナントカカントカのナントカカントカ、季節のナントカカントカ添え、なんてものしかなかったら、楽しいはずの食事の時間でさえ苦痛になったかもしれない。

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驟雨の隙間 (5)|夜お茶会

寮の部屋は、一人に一部屋与えられている。

一つの部屋は、ほとんどが八帖ほどで、ベッドとクロゼット、チェストやドレッサーなどの家具がはじめから揃えられていた。

その他にも、電気ポットやティーセットを貸していただけるので、部屋で淹れたてのお茶を飲むことだって可能だ。

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驟雨の隙間 (6)| カミツレ

「カモミールティーね」

 

まったくお嬢様には恐れ入ったもので、水色と香りだけでぱっとお茶の種類を言い当てた塚本さんへ、ひよりは尊敬の眼差しを送る。

 

 

「実は私、紅茶の種類がよく分からなくて、寮監さんにこれがいいって教えてもらったの」

 

「ああ、それはそうかも」

カップから立ち上る湯気を吸い込み、塚本さんはおっとりと微笑む。

 

「紅茶にも緑茶にもカフェインが含まれているから、ぐっすり眠りたい夜には飲まないほうがいいの。でもハーブティーには含まれてないものが多いし、このカモミールティーはリラックスするのに最適なのよ」

 

「そうなんだ! すごい、物知りだね、塚本さん。先生みたいだよ!」

 

思いがけず褒められた塚本さんは、くすりと笑った。
「可愛い方ね、狛桐さんって」

まるで子どもでも見るような感じで言われて、ひよりは唇を尖らせて、カップに口をつけた。

 

苦いような甘いような味と、ほわりとした花の香りが広がる。

「そういえば、本決まった?」

尋ねれば、白く細い指がメガネの蔓をくいっと上げる。

塚本さんは文庫本を顔の前にかざして、窺うようにひよりを見た。

 

「いいよ」

ひよりは笑う。まるで、どんぐりを見つけたリスのようだ。

 

 

「お茶を飲みながら、読書大会しよう?」

塚本さんはとても恥ずかしそうな顔をして、でもはにかんで、笑った。

 

「ありがとう。いただきます」

その後、頂き物のクッキーとリラックス作用のあるカモミールティーで、場はおおいに和んだ。
最終的に塚本さんが選んだ本は、最初に取り出した王道の少女小説で異国ものの恋愛ファンタジー本だった。

 

 

「本当に、お借りしてもよろしいの?」

 

「いいよお。まだいっぱいあるから、また来て。クッキーもいっぱい残ってるよ」
もう眠くなってしまったひよりの口調に塚本さんは微笑んだ。

 

「私も色々お持ちするわ」

 

しばらくして、予想外のことが起こった。

 

「狛桐さん、この間の本なのだけれど」

 

「ごきげんよう狛桐さん、実は折り入ってお願いが」

 

「狛桐さん、狛桐さん」

 

お嬢様方から取り囲まれ、ひよりは苦笑した。

 

塚本さんに本を貸してからそれは徐々に始まった。

週明けに一人、週の半ばには三人、週末にはクラスの三分の一ほどが、ひよりの元へ訪れた。理由は至極簡単で、塚本さんと同じように本を貸して欲しいというわけ。

 

思わぬ事態に当初は戸惑ったひよりだったが、やはりというか、すぐに慣れた。

いまでは、クラスの殆どが自習時間も休み時間も本を読んでいる。

驟雨の隙間 (7)|ヤキモチ

このごろ、瑠璃のご機嫌が滅法悪かった。

とは言ってもクラスメイトのまえでは上手い具合に隠していて、特に異常はないのだ。
だが、ひよりの前でだけは素に戻るのだろうか、不機嫌を隠す素振りさえ見せない。

なにかに怒っているというよりは、なにかが気に入らないといった雰囲気だ。

「瑠璃、どうかした?」

「いいえ、べつに」

万事そのようなやり取りしか行えないのである。
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驟雨の隙間 (8)|温室密事

瑠璃の指がブラウスのボタンを外す。
下から順序良く外していき、ひよりの白い腹に手のひらを這わせる。

そのこめかみにキスを落としながらひよりは尋ねた。

「さっき、どうしたの?」

「………………」

「ねえ、瑠璃」

瑠璃はひよりの言葉など聞こえていないふりで、ひよりの肌を貪る。

いまは触れないほうがいいのだろう。
瑠璃本人も、言葉に出来ないほど混乱しているのかもしれない。
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驟雨の隙間 (9)|なめねこ

もはや見慣れた白いローターで絶頂を迎えたひよりは、けだるい体をベッドに横たえた。
前面から絡み付いていた瑠璃も、そのままくっついてくる。

「グゥ」

少女の重さに、声が出た。

いくら瑠璃が細いとは言っても、さすがにひよりには支えきれない。

「るーり」

「う、うー!」

優しく名前を読んであげると、瑠璃はむずがるように首を振って唸り声を上げた。

ひよりに正面から抱きついたままの体勢で、あまりない胸に顔を埋める。

「うーうーうー!」

ひとしきり唸ったあと、彼女はがばっと顔を上げて、ひよりから体を離す。
座り込んだかと思えば、乱れた髪を素早く整えた。

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驟雨の隙間 (10)|お仕置き

なにを言われているのか理解出来ずに、軽く首を傾げる。

「蔑ろになんかしてない」

「いいえ、していたわ。最近ずっと避けていたでしょう」

「あ、あれは……」

瑠璃の機嫌が悪かったから。
一人にしたほうがいいのかと気を回したのだ。

 

けれどそれは結果的には逆効果だったようで、瑠璃はニイと笑う。

「いいから、黙ってお仕置きされなさい」

「ちょ、ちょっと、ま、っあぁ!」

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