5.土曜日の首輪|Not used to Love

not5土曜日の朝。
黒い首輪をつけたまま隣で眠る詩乃に、莉南子は触れるだけのキスをした。

休日の前夜は激しく抱いてしまう。
詩乃の肌には鞭の痕や紐の痕が幾つもあった。
シーツもローションや二人の蜜で汚れている。

洗濯をする前に、他の家事を済ませようと莉南子はベッドを出た。
溜まった食器を洗い終えた時、詩乃がふらふらとキッチンに歩いてきた。

「起こしちゃった?」

詩乃は返事もせず、莉南子にぎゅっと抱きついた。

「莉南子がいなかった」

泣きそうな声。

「ごめん。びっくりしたね」

こくりと頷く頭を、莉南子は優しく撫でる。

「大丈夫。どこにも行かないよ」

何が不安なのか、詩乃は時々こうなる。

「詩乃を置いていったりしないから」

落ち着くまで抱きしめてやらないと、詩乃の瞳は悲しさで曇ってしまう。

「詩乃はずっと、私のものだよ」

「うん……」

しがみつくような抱擁を受け入れたまま、莉南子はキスをした。
唇や頬はもちろん、額や鼻の頭、涙を薄く刷いた瞼にもキスを降らせる。

莉南子は詩乃の体から、少しずつ強張りがとれていくのを感じた。
心の底からほっとする瞬間。

恋人を悲しませる時間なんて、一秒もない方がいい。

「朝ご飯、食べようか」

タイミングを見計らって言うと、詩乃が淡い笑顔を浮かべた。

「ホットケーキ、作りたい」

甘える顔が愛しくて、莉南子も自然と笑う。

「いいよ。一緒に作ろう」

「食べたら何する?」

すっかり元気になった詩乃が首を傾げた。

「洗濯。詩乃のせいでシーツが汚れたから」

耳元で囁けば、首輪の下の項がうっすらと朱を帯びる。

「洗ってる間、リードに繋いでてあげるね」

詩乃の孤独や欲望、いや、あらゆる感情を飼い慣らせるのは、自分だけ。
莉南子はそっと、詩乃の首輪を撫でた。

4.火曜日の真珠|Not used to Love

not4「詩乃、これ穿いて」

火曜日の朝。着替えていたら、莉南子が下着を差し出した。
オフィスに向かない、細いTバック。
しかも、クロッチ部分はパールだけ。

「こんなのじゃ、仕事できない」

当然の抗議は、莉南子の耳に届かない。
無言で跪き、下着を穿かせようとする。

詩乃は仕方なく足を上げた。
布が太ももを撫でる感覚に、体が反応してしまう。

「昨日また、色目を使った罰だから」

「はい……」

詩乃は甘んじて罰を受け入れた。
しかし、パソコンのキーボードを叩きながら、詩乃は戸惑った。

想像以上の違和感。
パールが花芯に触れる度にもどかしい。

「詩乃、大丈夫?食欲ない?」

昼休み、莉南子が意地悪く尋ねた。
休憩室で具体的なことを言う訳にもいかず、詩乃は縋るような目を向けるしかない。

「我慢できたら、ご褒美あげる」

ご褒美、という言葉に詩乃の内側が潤む。
ストッキングもショートパンツも汚れたのが分かった。

「我慢したよ」

詩乃は部屋に帰り着いてすぐ、服を脱ぎパールの下着を莉南子に見せた。

「いいコだったね。ご褒美あげる」

莉南子が蜜に濡れたパールを、満足そうに指でなぞって笑う。

「舐めていいよ」

ソファーに座った莉南子は、スカートやストッキングを脱いだ。

詩乃が素早く脚の間に座る。
熱を放つ秘花に舌を伸ばすと、頭上から甘い呻きが降った。

「はぁ、美味しいっ……」

「……上手だね」

尖りきった淫核を舌で捏ね回し、顔中に蜜を浴びるのが詩乃は好きだ。

「あぁ、しのっ……いくよ!!」

莉南子が詩乃の頭を押さえつけながら、腰を揺らした。
詩乃はこの瞬間の息苦しさに、快楽を覚える。

「舐めただけで、そんなに感じて」

達した後の莉南子よりも詩乃の呼吸の方が荒かった。

「はしたないコには、お仕置きしなきゃ」

立ちなさい、という命令に従い、詩乃がその場に立つ。

ご褒美より、お仕置きの方がうれしいんでしょう?」

「……はい」

何もかもを知る指が、パールをずらして秘花に侵入する。
詩乃は恋人に支配される心地よさに、全身を委ねた。

3.金曜日の玩具|Not used to Love

not3金曜日の夜。
詩乃の手料理を食べ、テレビを見る時間が莉南子は好きだ。
ささくれていた頭の中が穏やかになっていく。

「詩乃、眠い?」

莉南子は膝枕の上の詩乃の髪を撫でた。
さっきから口数が少ない。

「眠くない」

でも、と詩乃が言葉を継ぐ。

「したい」

誘惑とおねだりを同時にやってのける瞳に、莉南子は欲情した。

「ベッドに行こうか」

リビングとは引き戸で仕切られた狭い寝室。
セミダブルのベッドは二人だけの世界。

「しのっ……ゆっくり……」

性急なキスを咎めても、詩乃は止まらない。

「んんっ……あっ……」

莉南子は詩乃の唇や舌を噛んでやった。
快感と痛み。
ワガママな恋人を支配するには両方が必要だ。

「もう、濡らしてる」

下着に染みた秘蜜の量は多く、詩乃の淫らさを伝えた。

「何が欲しい?」

莉南子の言葉に、詩乃の呼吸が乱れる。

「ぁ……オモチャがいい」

「どの?」

そういうオモチャは幾つか買ってある。
詩乃を満足させるために。

「ん、ぎゅって、できる方……」

詩乃がねだったのは、ペニバンだった。

「詩乃はいやらしいね」

莉南子はベッドサイドの棚から、ハーネスを取り出し身に着けた。
細めの黒いディルドをリングに通すと、自分が残酷な支配者になった気分になる。

嗜虐と奉仕が混ざり合う行為は、詩乃との間だけにしか成立しない。
莉南子は念のためのコンドームをディルドに被せてから、詩乃の脚を開いた。

「いれるよ」

角度を確かめながら、莉南子が腰を沈めていく。
詩乃の口から高い悲鳴が漏れた。

「ぎゅって、して」

莉南子は華奢な体を強く抱きしめた。
優しい抱擁とは真逆の律動も始める。
詩乃が言葉にならない嬌声を上げた。

繋がった場所からも、卑猥な水音が漏れる。

「こうされたかったの?」

「はぃ……ぅあ、りなこっ……」

背中にしがみつく手の熱さに煽られるまま、莉南子は秘花を穿ち続けた。

「もっと、気持ちよくなって」

詩乃の反応がいい場所を狙って、莉南子は腰を打ちつけた。

「そこダメぇ!……っああ!!」

莉南子は両腕の中で達する恋人を、永遠に抱きしめていようと思った。

2.水曜日の鞭|Not used to Love

『もうすぐ終わるから。いいコで待ってて』

会社の休憩室。
莉南子からのメールに詩乃は溜息を吐いた。
水曜はノー残業デーなのに、莉南子の部署は平気で残業をする。

「詩乃ちゃん、また莉南子さん待ち?」

二回目の溜息を吐いた詩乃に、同じ部署の男性社員が声をかけてきた。
同居は周知の事実だから、詮索も少なくない。
詩乃はそっと身構えた。

「はい。残業みたいです」

「二階は忙しいから。てか、二人、本当に仲いいね」

ほら来た、と思いながら詩乃は薄く笑った。

「莉南子さん、面倒見いいから甘えちゃうんですよ」

関係を隠すためじゃなく、面倒を避けるために言わない。
莉南子との約束。

「あ、これ見てくださいよ。可愛くないですか」

詩乃は話を変えるために、自分のスマホを男性社員に差し出した。

「コンビニの猫?」

体の距離が近くなるが、詩乃はなんとも思わない。

「詩乃、ごめん。遅くなって」

莉南子が来たのは、二人がスマホを覗いている時だった。

「平気ですよ。ノザキさんが構ってくれたし」

詩乃はにこりと男性社員に微笑んだ。
周りの判断を濁すために。

家路を辿る電車。
いつもと違って、今日は無言が続く。

詩乃は莉南子の不機嫌を察した。
不安と同時に淫らな期待が湧き上がる。

「男に色目を使う悪いコには、お仕置きが必要だね」

1LDKの部屋に帰り着き、やっと莉南子が口を開いた。

「ベッドに手をつきなさい」

「はい……」

従順を強いられ、詩乃の瞳と内側が潤んだ。
ピンクの乗馬鞭を持つ手が見え、詩乃の呼吸は乱れる。

「濡れてる。本当に詩乃は悪いコだね」

乱暴に服と下着を剥いだ莉南子が、期待に濡れた恥花を弄んだ。

「…ごめん、なさい」

「他に謝ることあるよね」

「ひあっ!」

ぴしっと音が鳴り、柔丘に鞭が当たった。
鋭い痛みを詩乃の体は快感として受け入れる。

「あぁ…職場の人に、色目を使ってごめんなさっ…」

謝っても、鞭は止まらない。

「詩乃は誰のもの?」

「ぅ、あ、莉南子のものですぅ…」

詩乃は被虐の悦楽に沈んだ。

1.日曜日のキス|Not used to Love

not1日曜の昼前、あっ、と短く叫ぶ声が1LDKの部屋に響いた。
ソファーでテレビを見ていた莉南子は、キッチンへ視線を移した。
ミネラルウォーターのボトルを持った詩乃と目が合う。

「こぼしちゃった」

顎からぽたりと水が滴った。ロングTシャツにも染みが広がる。口を付けずにボトルの水を飲もうとしたらしい。

「コップを使いなさいよ」

莉南子はキッチンに立ち、ティッシュで床を拭いた。

「ないもん」

詩乃がシンクを目で指す。
平日に使ったグラスが溜まっている。

「マグカップあるでしょ」

「冷たいのはグラスなの」

詩乃の変なこだわりに慣れたのは、いつだったか。
莉南子は八つ年下の恋人に苦笑しながら、そうだったねと返した。

「怒った?」

年齢は大人の癖に、詩乃は子供の目をする。
この瞳にはまだ慣れない。

儚く揺れる瞳。
庇護欲と支配欲に触れる瞳。

「怒ってないよ。これ洗おう」

莉南子は柔らかく言って、詩乃のTシャツを脱がせた。
初夏の日差しが白い裸を照らす。

「可愛いおっぱい

「んっ…だめ…したくなる」

小さめの乳房にキスを受けた詩乃が甘く喘ぐ。

「昨日、あんなにしたのに?」

胸の先を弄びながら、莉南子は熱い耳に囁いた。

「したいの?」

「した、ぃ…っ…」

莉南子は返事を遮るように、桃色の唇に接吻けた。
舌を絡めれば、敏感な体が震える。

キッチンの壁に華奢な体を追いつめ、莉南子は長くキスをした。

「んぅ…ここで、するの?」

詩乃の言葉には隠せない期待が滲んでいる。
莉南子は白い太ももを抱え上げた。

「ひああ…!」

前触れなく差し込んだ指を、詩乃の内側は拒まない。
昨夜の蜜が充分に残っているから。

「あ、ぁん、りなこぉ…」

甘く自分を呼ぶ恋人に、莉南子は指で応えた。

奥で少し指を曲げて、ぐちゅぐちゅと混ぜる。
詩乃は呆気なく絶頂を迎えた。

「のど渇いた」

詩乃がソファーに身を投げ出す。

「はいはい」

莉南子はマグカップに水を注ぎ、口移しで水を飲ませてやった。

「もっと、飲む」

詩乃が水をねだる。
グラスだけでも洗わなくては。

莉南子は思いながら、唇を重ねた。

帝国(10)|箱庭の国

濃いピンク色のLのような形をしたおもちゃを、瑠璃が取り出した。いくつか持っているバイブと同じ、スワンシリーズ、カナダから輸入された双頭バイブで、名前はエターナル。本当に、いい名前だ。二人にとっては皮肉が逆に望みにすら感じられる。

スイッチを入れると、低いバイブの音が耳に届いた。L字の短い部分の先端、卵型をした場所を、瑠璃が自分の秘部に押し当てる。
「ん、くぅ」

膝立ちのまま、瑠璃はそれを自分の中に収めた。白い下腹部からは、濃いピンクのバイブが、まるでそそり立つペニスのようにして生えている。

まさに、生えているという表現がぴったりだ。L字の片方を体内に収めると、まるでペニスが生えているように見えるのがこのおもちゃの売り。女の子同士でも感じ合いながら、セックスできる。抱き合える、夢のような商品で、だからこそ二人とも欲しくなったのだ。
「いれるわよ」

掠れた声で、瑠璃が告げた。
「い、れて」

潤んだ声で、ひよりが応えた。
「んっ」
「あ、ああぁ」

シリコンのすべらかな触感。強く振動しているものが、中に潜り込んでくる。
「はあ……ひより……」

瑠璃が体を倒し、ぎこちなく腰を動かす。触れ合った肌が熱い。
「あっ、あっ」

快はさほど強くない。けれど、これには何物にも代え難い悦びがある。
「ひより、すきよ」
「アッ」

ぞくぞくとした快感が腰から脊髄を通り、脳に達する。ぶわわっと麻薬のようなものが分泌されるのが分かった。思考がピンクに染まる。
(ああ、)

だめだ。離れられない。

瑠璃と離れられない。

このぬくもりを、手放せるわけがない。

「るり」
「ひより」
「瑠璃、考えよう」

誰かを不幸にしたっていい。嘘をついたっていい。何年掛かったっていい。

ずっと、一緒にいる方法を考えよう。

「いつまでも」
誓いのキスは密やかに。

 

これは、箱庭の中でだけ存在する物語。

あるいは、シュレーディンガーの猫箱

それは、外界からはけして覗き見えない、花園に降る驟雨の隙間を縫って行われる茶会。

円舞を踊り続ける少女たちの物語。

【数年後、藤ノ条グループと狛桐グループは新分野の開拓にあたり、業務提携することを発表した。これには、両家当主が学生時代の級友であったことが大きな要因であるとされている。夫を得てなお二人は仲の好い友人同士であり、しばしば休日を共に過ごすところを目撃されている。】

その帝国はいつまでも朽ちずにそこにある。誰かが箱を開けない限り、ひみつは永遠に続く。

帝国(9)|自由とは

「あ、あ、はっ」

ひくっと体が痙攣する。黒い羽根がひよりの肌の上っ面を撫でて、焦らす。さっきからずっとそれの繰り返しで、ひよりは唇を噛んで頭を降った。
「も、やだあっ」

油断すると、体内で複雑に振動するローターの刺激をもろに感じ取ってしまう。すると、ひよりの意思とは関係なく手足が引き攣って、つらいのだ。

いかせて、とひよりは泣いた。手枷が皮膚に食い込む。汗を掻いている。
「おねがい、るりっ」
「では、約束なさい。定められたそのときが来るまで、わたくしのそばから離れないと」
「する、するからっ!」

素面であってもひよりは頷いたであろう。それほど当たり前なことだ。けれど瑠璃は即答が気に入らなかったらしく、ひよりの乳首をぎゅうと摘み上げた。
「いあっ」

痛みさえも、いまは快感にしかならない。

瑠璃がひよりに顔を寄せた。こつんと額を当てて、彼女は尋ねる。
「本当に、分かっているのでしょうね?」
「わかってる、もんっ」
「――――わたくしが、この言葉を言うのにどれほどの勇気がいったかも?」
「え、?」

瑠璃は、真摯な眼差しでひよりを見つめていた。
「貴女が好きよ、自由なひより。貴女から自由を奪うのは貴女を殺すのと等しいのかもしれない。けれど、手放せない。そばにいなさい。花ノ宮にいる間は、わたくし以外を見ることは許さない」
「瑠璃」

不覚にも、どきっときてしまった。瑠璃がこんなに強い言葉を使うなんて。
「……ねえ瑠璃、手、外して? 瑠璃のこと、抱きしめたいの」

懇願すると、目元を朱に染めた瑠璃は、ゆっくりとひよりの手首の戒めを解いた。革の手錠で拘束されていた場所は少し赤くなっていて、それもまたいい。瑠璃に求められてるって実感できる。
「私は瑠璃から離れない。それは私の意志だよ。私は自由だ。だから、瑠璃のそばにいるの」
「ひより……」

白い耳朶に吹き込むように囁いて、ひよりは瑠璃の体を抱き寄せた。大好きな瑠璃。出来ることならば、一生こうしていたい。

しばらくそのままで抱き合っていた二人だが、ちょっと中が限界だったので、そっと体を離した。体を丸めて、脚の間に潜り込んでいるを引っ張り、ローターを出す。抜け出るときに快感があったが、もう内部は痺れてしまっていた。

瑠璃は、そこを慰撫するように指を這わせ、ひよりのお腹にキスを落とす。実は、今日は本命があるのだ。瑠璃とひより、二人が望み、お金を出し合って買ったもの。

ピンク色した、双頭バイブ

帝国(8)|なま殺し

「力ずくって意味、色々考えたのだけれど」

黒い羽根の束のようなものをゆっくりと振りながら、瑠璃は言う。まるで羽根扇のようなそれで、一体今度はなにをするというのか。

「要するにあれよね。わたくしが、ひよりに飽きられないように色々と趣向を凝らし、体を繋ぎとめればいいのよね」
「なんでそうなったの! 不純!」
「あら、もともとわたくしたちは不純な関係じゃない」

それを言われるとなにも言い返せません。

「これはLELOのタントラよ。綺麗よね、くすぐるためにあるのよ」
「な、なにを?」
「あら、分かってるくせに」

瑠璃はそれを持ち替えると、羽根の先端でひよりの首筋を撫でた。
「はあっちょっ、くすぐったいっ」
「まだ、そうかもね」

こしょこしょと擽られて、ひよりは体を粟立たせる。我慢できないほどでもないが、快のような不快のようなものが体の中を駆け巡るのは、好きではない。
「アッ」

不意に乳首を撫でられて、背筋が反った。頭上で手錠の鎖が音を立てたが、手が抜けるわけもない。

「おまたにはこれ挟んでなさいな。貴女の好きなピコボンのホニよ」
「ああんっ」

濃いピンク色のローターを脚の間に押し付けられて、ひよりは喘いだ。力強く振動するそれを小陰唇と大陰唇で包むようにして、そこに放置する。乳首を羽根で擽られるぞわぞわする快感と、溢れ出る愛液によってぬるぬると動いてしまうローターに翻弄されながら、ひよりはこの行為に意識を沈めていく。

「やあ、あ、あっ」
「ひより」
「おねが、るり、っ……あてて、した、あててっ」

懇願すると、瑠璃はまたいやらしく笑う。挟んでいるだけのローターでは、ひよりの気持ちいい場所を上手く刺激することができない。もっと強く当ててほしい。ひよりは明確な快感がほしい。

「お願い、瑠璃」
脚を開いて、ひよりは瑠璃に懇願した。
「しようがないわねえ」

ふっと息を吐き、瑠璃はローターをひよりの秘部に宛がう。そのまま肉芽を刺激してくれるものだと思っていたのに、瑠璃はそれの先端を、口を開きつつあった粘膜へ押し付けた。
「あ……あぁ……はいって、くるっ」

それなりの大きさのあるローターが、ひよりの胎内を分け入ってくる。一定の場所まで入ると、後は締め付けによってにゅるんっと入ってきた。その感覚がたまらなくてひよりは息を吐いた。

力強い振動が体内を駆け上がる。同時に羽根扇を使われて、気持ちのいい場所にどうしても届かないじれったさに、皮膚が痙攣した。

帝国(7)|革の手枷

「ひより、温室にストーブを持って行って頂戴。今日はあそこで寝ましょう」

書類から顔を上げないままの瑠璃の言葉に、ひよりは快く頷いた。

明後日は始業式、そしてその翌日は一年生の入学式だ。瑠璃の仕事はほとんど終わりつつあって、もうここへは来なくても大丈夫そう。でも今度は寮に帰還した生徒たちが溢れ始めたため、もう少しだけこの静寂に浸っていたくて、二人は今日も寮を抜け出してきた。

そして瑠璃がもろもろの書類のチェックをしている間に、ひよりが寝床を整えているというわけ。
「瑠璃、準備できたよ。まだ掛かりそう?」
「あと二枚…………先に行っておいていいわ」
「うんわかった。布団あっためとくね」

電気ストーブを置かれた温室は、まだ肌寒い。それでも天蓋を掻き分けてベッドに潜り込むと、そこはほのぼのと暖かかった。石油ストーブを用意出来ればよかったのだが、生憎年明けに故障してしまっていた。それに、眠るときにつけっぱなしにするのはちょっとばかし危なさそうでもある。

「ひより」
「ここだよ、瑠璃」

応えると、瑠璃が黒く長い髪を揺らして天蓋を潜り抜けてきた。さっさと制服を脱いでしまって、それどころか下着まで脱ぎ捨てた瑠璃は、ひよりの隣に潜り込みながら呟いた。

「さすがに寒いわ」
「でしょうよ!」

笑いながら、ひよりは瑠璃の体を抱き寄せる。ひよりだって、もう全裸だ。素肌での触れあいは止められない。こんなにいいにおいがして、こんなにあったかくて、やわらかくて、すてきなものがかつて存在しただろうか。瑠璃を抱きしめながら、ひよりはいつもそう思うのだ。

「ねえひより、目を瞑っていて?」
「ん、なあに?」
「いいから」
「ん……」

命じられた通りに目を閉じると、両腕を掴まれた、手首になにか巻きつけられている感触。まさか、と目を開けると、少女の両手首には黒い革の手枷が絡み付いていた。

「な、なに、これ」
「ええとね、貴女まえ言ってたじゃない?」
手枷をベッドの頭上に固定しつつ、瑠璃は微笑う。

「力ずくで繋ぎ止めて、って。だから買ったのよ。サーペント柄の、手枷、黒なの。ひよりによくに合うわ」
「似合っても嬉しくない! てかちょっと、瑠璃さん? おかしな方向へ行ってません?」
「気のせいじゃないかしら」
「あっ」

はぐらかすように肩を竦めて、瑠璃はそっと、ひよりの胸元へキスを落とした。紅く色づいた可愛い突起をくすぐられれば、体の内側で熱が生まれる。春の夜に溶ける。

帝国(6)|期限付き

ひよりは、あまりの衝撃に硬直していた。暑くもないのに汗が胸元を流れる。鼓動が速まった。それは、己の心のどこかにあった考えを見透かされたと思ったからだったのかもしれない。

瑠璃と、ずっと一緒にいたいと思っている。けれど、それは叶わない願いと知っている。知っているからこそ、ひよりはこんなにも瑠璃をあいしてる。

瑠璃と一緒にいたいのは本心だが、いつまでも瑠璃と一緒にいようとは思っていない。瑠璃と逃げるほど、心は定まっていない。

ひよりは父親に恩を感じている。母と共に捨てられて、ずっと怨んでいたはずだったのに、筋を通して、探し出して、頭を下げてくれた。その瞬間に、すべて許したのだ。ひよりが無為に過ごしたのと同じ十五年で、新しい伴侶を娶り、跡取りをもうけることが出来るはずだったのに、彼はそうしなかった。ひよりと母を、二人だけを、愛してくれた。

だから、恩を返そうと思っている。父親の言いなりに結婚する。狛桐にとって最もいい縁談を、ひよりは選ぶ。他でもない、自分の意思で。
「…………瑠璃」

理由は違えども、思いは彼女も同じだろう。ひよりの言いたいことを覚ったかのように、瑠璃は暗闇の中で身動ぎした。

「ええ、これは期限付きの関係なのだわ。それは知ってる。わたくしもひよりも、いずれは男の方と結婚して、子どもを産まなければいけない。でもそれまでは、貴女を独り占めしたいと思っているのよ、わたくしは。――――結婚は、それは、いいの。覚悟していたことだから。御家のためにと思えば、それがわたくしのことであれ貴女のことであれ、我慢が出来る。正しくなくとも、御家のためだと自分を騙せる」

こういう定めだったのだと、ひとはいつでもそうやって己を偽る。運命だなんてちゃちな言葉を使ってみたりして。

「赦せないのは、貴女が、わたくしの目の前で、まったく無関係の男性に心惹かれること。どこの誰とも知れない馬の骨に、ひよりが奪われること」
「そんなこと、あるわけないよ」

苦笑が漏れたが、瑠璃は存外本気のようで。
「いいえ、ありえるでしょう。……貴女は、外を知っているから」
「知ってるからこそだよ、瑠璃」

外の世界を、男の子たちをそれなりに知っているから、それはないと断言できる。
「私は、親が決めた相手以外とは付き合わない。そう決めてる。それにいまはなによりも、瑠璃のことが、好きだから。――――でも、そんなに心配なら、力ずくででも繋ぎ止めて?」