甲府盆地の暑い夏(8)|夜の勝負

kofu8「お待たせしました!!」

坂井美智が満面の笑みで、
書き上げた原稿用紙を阿川に差し出した。

阿川は受け取って
誤字と文法だけチェックし、OKを出した。

 

阿川が車に乗ろうとドアに手をかけた時、
まだ坂井美智は家の玄関のところに立って
にこにこし、手を振っていた。

阿川はぎこちない笑みを返すと、
そそくさと車内に入って車を発進させた。

阿川は支局に戻った。

夕方。
また今日も、新聞記者らしからぬ
緊張感のない1日を終えて家に帰る。

阿川の体にEDが発現して半年。
山梨に来てからは約3ヵ月。

一応阿川もEDに対して、
まったく手をこまねいていたわけではない。

東京にいる間は激務の編集長職と
その職からの更迭・左遷と
怒濤のように時間が過ぎていった。

山梨に来てからはそれと対照的な暇さに加え
上司・同僚からの冷遇があるが、
少なくとも時間はある。

阿川としても、
このまま簡単に「男」としての命を終える気はない。

多少気持ちが落ち着いてきたこともあり、
少しずつ対策を始めていた。

夜、その対策の一つをおこなう。

ヒンズースクワットと呼ばれる、
立ったりしゃがんだりする運動である。

阿川には詳しいことは分からないが、
スクワットにより特定の筋肉が鍛えられることが
勃起力回復に効果があること、
それから股関節の周囲が疲れることが
勃起をうながしやすいという情報を見た。

男子アイドルの光GENJIは女遊びが激しかったらしいが、
それは彼らが常にローラースケートで走り、
下半身が猛烈に疲れたため……
というような、本当か嘘か分からないような噂まで目にした。

膝を痛めないよう気をつけながら、
ノルマのスクワット50回をおこなう。

中年にとっては楽な運動ではない。
なんとかこなした後は、しばらく立ちたくないほど疲れる。

息が落ち着いたらサプリを飲む。
亜鉛や鉄は、定番と言っていいだろう。

他には、どういうわけか
ED対策薬として口コミの評価の高い胃腸薬。

それから南米原産の植物を原料にした生薬。
ドラッグストアで精力回復剤として大いに宣伝していた。

こういう薬や食物を、
2週間おきぐらいに替えていろいろ試している。

正直なところ、得体が知れないものが多い。

阿川はシャワーを浴びた。
今日は、何日に一度かの「勝負」をする日だ。

この3ヶ月間にしてきた対策が
少しは効果があったのか、
あるいは東京本社での仕事のプレッシャーから
解放されたのがよかったのか、
一応弱々しく勃起するようになっていた。

時間はかかるが、射精をすることもある。

オナニーをして勃起の度合いを確かめ、
できれば射精をする。
それが「勝負」だった。

前回も射精はしたが、勢いも量も充分ではなかった。
だから今回は、10日間貯めた。10日ぶりの勝負である。

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