甲府盆地の暑い夏(24)カナダの観光大使

チューブの中のペニスに直接は触れられないが、
EDになって以来最高の固さになったという実感がある。

阿川は説明書を読み、さらにポンプをゆっくりと押す。
吸引しすぎると危険らしい。
ペニスが痛くなる前にやめる。

チューブを外し、触ってみる。
やはり固い。

挿入可能だと阿川は思った。

チューブを外すとペニスの根元に、
ゴムのリングがはまるようになっている。
これによりペニスに溜まった血液が戻らない。

阿川の目の前をおおっていた厚い壁にひびが入り、
崩れ、青い空が見えた。
阿川は確かに、その光景を見た。
光が差し込んだ。

この器具の効果があったとともに、
健康をある程度取り戻したことも意味があったのだろう。
数ヶ月前の阿川だったら、成功したかどうか分からない。

この器具を使って、
挿入が可能な固さになるということは分かった。
あとは実践だった。
実際に女性と性交をしてみたい。

一応阿川が付き合っている、と言えるかどうかは微妙であるものの
好意を持っている存在として坂井美智がいた。
しかしセックスするなら彼女とだけと決めるほど、
阿川は純情ではなかった。

いやむしろ、真逆だった。
以前は複数の女性と平気で関係を持っていたような、
誠実とはほど遠い位置にある男である。

とりあえず最も手っ取り早いと言えるのは、
風俗に行くことだった。

ソープランドが王道だが、デリヘルでも
いわゆる本番を裏オプションとして用意している店がある。

吉原に行くか、それとも東京のホテルに泊まって
デリヘル嬢を呼ぶか……と阿川が考えている間に、
勃起補助器具を試す機会は意外な形で現れた。

「阿川!ちょっと来い!」

中央新聞の甲府支局。
ある朝阿川は、大声で支局長に呼ばれた。
今日手配していた通訳が、業者の手違いで来ない。
それで、日常会話程度の英語ができる阿川が急きょ呼ばれたのだった。

仕事はというと、ある外国人女性の観光案内をすることだった。

山梨県のある市が、カナダのハミルトン市と姉妹都市になっている。
ハミルトンはカナダでも有数の、ブドウとワインの産地である。
今その市から観光大使のカナダ人女優が来ていて、
昨日までワイナリー訪問などのPR活動をやっていた。

それが終わり帰国する前の1日、後援会社の一つである
中央新聞が彼女を県内の観光地各地に連れて行く約束だった。
ところが通訳派遣会社が日にちを1日間違えていて、
全員他の仕事をしていて誰も来ない。

甲府に来て日の浅い阿川は観光地について詳しくないが、
観光協会の人が同行するとのことだった。

「通訳するのはいいっすけど、難しい英語は分かりませんよ。
ブドウの産出高がどうのこうのとか」

阿川は支局長に言った。

「いいんだよ。分からなきゃ適当に訳せ。
とにかく案内したっていう事実を作りゃいいの」

仕方ねえな、と思いながら阿川が席に戻ると、
編集部の入口に背の高い女性が現れた。
カナダ人女優エリー・ホワイトだった。

本国カナダでは新進女優として人気だが、
日本での知名度はほとんどない。

だが編集部で実際に見たエリーの華は、圧倒的だった。
彼女が現れた瞬間、室内がどよめいた。

彼女は「コニチワ」と編集部員に愛想を振りまき、
青い眼とブロンドヘアを残像のよう記者たちの目に残しながら、
支局長室へと入っていった。

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