甲府盆地の暑い夏(2)|悪夢

kofu2香織はだんだんと焦り始めた。
一向に阿川のものが、大きくなる気配がない。

香織のテクニックが稚拙というわけではない。

彼女はむしろ、
男のものを扱うことに自信を持っていた。

 

阿川が「もう無理だ」と言っているのに
香織がそれをいじり始め、阿川の意志に反して
それが固くなってまた抱き合うということが、
これまで何度もあったのだ。

香織は必死になるあまり息をはずませ、
最期にフウーッとため息に近い息を吐いた。

「無理みたいね」

「すまん。こんなことは初めてだ。
体調が悪いだけだと思うが……」

「どうでしょうね」

「何?いやな事を言うなよ」

「こういうの今までも何回か見てるもん。
ある時突然だめになって、
それからずーっとだめっていうの」

今まで香織を抱いてきた男たちへの
嫉妬も加わり、阿川はカッとなった。

「うるせえよ。
お前が相手をしたジジイどもと一緒にすんな。
俺はまだそんな歳じゃない」

阿川は香織に枕を投げつけた。

「キャハハハ。情けないわね。
あんたからセックスをとったら何があるのよ。
傲慢で見栄っ張りで、中身からっぽの男」

阿川は耳を疑った。

これが、ついさっき阿川のモノを欲しがって
よだれをたらしそうな顔をしていた女の言う事か。

「お、お前……何のつもりだ」

「キャハハハハ」

阿川は香織を殴ろうとした。
しかしなぜか、香織のかん高い笑い声に
気おされたようになって動けない。

東京の街を見下ろすかなりの高層ホテルだが、
窓からはそれよりさらに高い
六本木ヒルズの光が射し込んできた。

だいぶ距離があるはずなのにそれは、
隣のビルのネオンサインであるかのように
ケバケバしく、強烈な光となって阿川の顔を照らした。

「ギィヤーハハハハ」

香織の笑いはますます甲高く激しくなり、
悪魔のような異様な響きを発し始めた。

窓からの強い光を背景にした香織の姿は
真っ黒に見え、口だけが赤く横に広がって
本当の悪魔のように見えた。

頭の中にガンガン響く香織の笑い声と
窓からの光によって身動きがとれなくなっていた阿川は、
力を振り絞り、布団をはねのけて体を起こした。

背中にびっしょり汗をかいていた。

昨日酔って寝たため、
カーテンを閉め忘れていた。

窓から差しているのはビルの光ではなく、
朝日だった。

そして窓の外に見えるのは
東京の夜景ではなく、ぶどう畑だった。

阿川が見た悪夢は、
半年前に本当に起こったことだった。

ただし事実なのは途中までで、
実際には香織はあんな風に阿川を罵倒しはしなかったし、
大声で笑いもしなかった。

あの後も何回か会い、抱き合おうとしたが、
結果は同じだった。
その後彼女とは連絡がとれなくなった。

今日見たのは、
この半年間に何回も見た悪夢だった。

見るたびに香織は、
悪魔のような残酷さを増しているようだった。

コメントを残す

サブコンテンツ

このページの先頭へ