甲府盆地の暑い夏(16)受診

美智と映画に行った日の数日後、
阿川は有給休暇をとって東京に来ていた。

ED治療の病院を受診するためである。

サプリメントや性器にはめるリング
一定の効果を挙げていたが、
充分とは言えなかった。

このあたりで決定打的な効果を得られないかと思い、
以前から考えていた専門医の受診を決行したのだった。

甲府にも専門病院はあるが、
万が一にでも知り合いに会うことを避けたかった。

東京は人も病院も数が多すぎて、
そういう事がまずない。

新宿の高層ビルに、
夏の太陽がギラギラと反射する。

そのビルの一つに入って目的の病院を訪ねる。

待合室にはやはり阿川と同年代の
40~50代の男性が多かったが、中には20代らしき若者もいる。
みな一様にうつむき、表情が暗い。

阿川は受付の女性に渡された問診票に記入していく。

「性的刺激によって勃起した時、
どれくらいの頻度で挿入可能な硬さになりましたか」

「性交を試みた時、
どれくらいの頻度で性交に満足できましたか」

質問に答えるたびに
自分の現実を再確認するようで、つらい。

阿川の番号が呼ばれた。
名前で呼ばないのも、受診者への配慮だろう。

医師は30代半ばに見える、
穏やかな男性だった。

医師は失礼にならないよう気をつけながら、
阿川に性器の状態を聞いていく。

それから現在治療中の病気や
服用している薬などはあるか、
酒・煙草は飲むか、
ストレスを感じることはあるか……

阿川は仕事での失敗のことや
現在の生活について、隠さず話した。

もしかして直接ペニスを見て触って
調べるのかと思っていたのだが、それは無かった。

医師は阿川の話を聞いた後、
生活習慣病によってEDになりやすい
体質になっていたところに、
仕事のストレスが引き金となったのだろうと言った。

阿川は自分が健康だと思っていたので、
これは意外だった。

その後、採血や心電図をとったりした。

それらの事が終わると、
医師は阿川に今日はED治療薬を
処方した方がいいかどうかを聞いた。

本来は血液検査の結果が出て、
診断が確定してからの方がいいのだが、
今の阿川の状態ならその前に飲んでも
害があるわけではないらしい。

阿川としては正直、
病院に来たのはそれをもらうためだった。
迷うことなく「お願いします」と言った。

医師は阿川にバイアグラの処方箋を書いた。

阿川はこの時、
バイアグラを夢の薬のように思っていた。

これですべてが解決するぐらいに思っていた。

だから、医師の「生活習慣病が一因」という言葉を
上の空でしか聞いていなかった。

このことをしばらく後で、後悔することになる。

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