甲府盆地の暑い夏(13) 半年前までの女

kofu13阿川は久々に、東京に来た。甲府支局の仕事で、中央新聞の本社で資料を探し借りるためだった。

 

本社ビルに入りロビーを歩くと、すれ違う何人かがギョッとして振り返った。阿川は本社では有名人である。今は悪名の方が高い。
閉まろうとするエレベーターに駆け足で入ると、中には先客の女がいた。

 

「あら」

「お」

総務部の菜々緒だった。

阿川が東京にいた時に付き合っていた女の一人である。

この女も阿川が甲府へ異動することが決まってから、離れていった。

「本社に戻ったの……?」

「まさか。仕事で来ただけだ」

エレベーターが動き出すと、菜々緒は背を壁にもたせかけ、前髪で顔を隠すように少しうつむいた。
相変わらず脚が長すぎるので、普通のOLの制服なのにミニスカートのように見える。

本社でアイドル扱いされている女の一人だった。

無言のエレベーター内に、ゴウンゴウンという機械の音だけが響いた。

メルアド、変わっていないか」

阿川が言った。
菜々緒はうなずいた。

「昼休み、お茶行けるか」

「……うん、いいよ」

菜々緒は前髪をかき上げ、少し目を見せて言った。

資料室での仕事を終えると、阿川は菜々緒とよく会っていた喫茶店へ行った。
寂れ過ぎていて、会社の人間に会うことがまずない。

しばらくすると、菜々緒が来た。

「それで……どう?体の方は」

菜々緒がコーヒーに目を落とし、顔を少し赤くして言った。
女から聞きやすい話題ではないだろう。

「おう、それがな。びっくりするぐらい元気になった。前以上にパワフルだ」

菜々緒が驚いて目を見開いた。
阿川がニヤリとした。

「……だとしたら、また付き合うか?俺と」

菜々緒はまた目を伏せた。

「……いま付き合ってる人がいるの」

阿川は内心腹が立つというより、苦笑した。
阿川は菜々緒の身体が目当てで付き合った。

菜々緒の方は、本社で飛ぶ鳥を落とす勢いだった当時の阿川にだけ興味があったのだろう。
当時からそう思っていたが、実際に目の当たりにすると空虚な笑いが浮かんでくる。

阿川は菜々緒の身体を思い出していた。

170cmの9頭身。細長い手足。
くびれたウエスト。

88cmの弾力のある乳房。
適度な大きさがありながら引き締まった尻。

そして体の中は、もっとすごかった。

男のモノに、根元から先までねっとりとまつわりつく。
しかもその動きが単純ではなく、何度も強弱の波を起こしながら男を絶頂へといざなってゆく。

阿川は菜々緒との行為では、
まさに搾り取られるように何度も何度も射精したものだった。

菜々緒自身も、最大限に楽しんだ。
セックスをするのが大好きだった。

だからこそ、EDになった阿川から離れていったのだろう。

阿川はプライドの高い男だから、菜々緒とそういう表面的な関係しか作れなかったことを今さら後悔はしなかった。

しかしそれを心の奥底は敏感に感じ、菜々緒との再会は砂を噛むような、苦い味を阿川に残した。

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