「甲府盆地の暑い夏」の記事一覧

甲府盆地の暑い夏 (1)|ある夜の出来事

それは突然、やって来た。 「その時」までは、いつも通りだった。 少なくとも阿川はそう思っていた。 ホテルの部屋に入った阿川と香織は、 バッグを放り投げると飛びつくように抱き合い、 お互いの唇をむさぼり合った。両方が獣のよ・・・

甲府盆地の暑い夏(2)|悪夢

香織はだんだんと焦り始めた。 一向に阿川のものが、大きくなる気配がない。 香織のテクニックが稚拙というわけではない。 彼女はむしろ、 男のものを扱うことに自信を持っていた。   阿川が「もう無理だ」と言っている・・・

甲府盆地の暑い夏(3)|甲府盆地

あの悪夢の出来事があった時、 つまり半年前には阿川は東京にいた。 今は山梨に住んでいる。 一日の最悪の始まり方だ…… と思いながら、阿川は顔を洗う。   朝食はいつも食べない。 スーツの中で あまりシワのかかっ・・・

甲府盆地の暑い夏(4)|分岐点

阿川が40歳になった時、転機が訪れた。 それまで「自分は現場の人間」と自覚し、 相応の歳になっても管理職にはならなかった。 会社もそれを認めたため、無理強いはしなかった。 (ただし阿川は決して欲のない人間ではなく、 立場・・・

甲府盆地の暑い夏(5)|甲府支局

朝9時。 阿川は中央新聞甲府支局に着き、 編集部への階段を上がる。 この支局には40人ほどが勤めており、 そのうち15人が記者だ。 阿川が部屋に入ると何人かが 「ざっす」と無表情でおざなりな挨拶をしたり、 いったん目を合・・・

甲府盆地の暑い夏(6)|読者コラムニストさん

車は県の北部、北杜市に入る。 取材で飛び回っている他の記者はどうか知らないが、 阿川は来たことがない土地だった。 カーナビだけが頼りである。 進行方向の正面に見える八ヶ岳が、かなり大きくなってきた。 周囲は果樹園ではなく・・・

甲府盆地の暑い夏(7)|四苦八苦

「うーんうーん、 ほうとうは一回書いただし、 あの店はパッとしなかっただし」 坂井美智は騒ぎながら、 「やまなしfood紀行」を書くために机に向かっていた。   確かにパソコンではなく、 原稿用紙に鉛筆で書こう・・・

甲府盆地の暑い夏(8)|夜の勝負

「お待たせしました!!」 坂井美智が満面の笑みで、 書き上げた原稿用紙を阿川に差し出した。 阿川は受け取って 誤字と文法だけチェックし、OKを出した。   阿川が車に乗ろうとドアに手をかけた時、 まだ坂井美智は・・・

甲府盆地の暑い夏(9)|引き分け

阿川は本棚から本を出し、カーペットの上に寝転がる。だいぶ前の、好きだった女性アイドルがヘアヌードになった時の写真集だ。 開くとあの頃と変わらない愛くるしい顔が微笑み、 しかしそのポーズはよつんばいで尻と胯間をカメラに向け・・・

甲府盆地の暑い夏(10)|田嶋さんの休職

翌日からは、梅雨らしい雨の日が続いた。 甲府盆地を囲む高峰群はまったく見えないが、ブドウ畑は水滴で葉を洗われ、その黄緑色をいっそう輝かせた。 雨の続くある日、編集部では一つ問題が発生した。 腰痛で休んでいた嘱託社員の田嶋・・・

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