甲府盆地の暑い夏(20)アンとマシュウ

八ヶ岳登山をきっかけに、阿川は美智といっしょに
1~2週間に一回野山を歩くようになった。

 

八ヶ岳に行った日から一週間のあいだは、
阿川は筋肉痛のため歩くのもやっとの状態だった。

 

それで美智に
「次から1/10ほどの体力しかいらないルートにして欲しい」
と言ったのだが、

「それじゃハイキングじゃなくてお散歩ですよ」
と言われた。
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甲府盆地の暑い夏(19)八ヶ岳ハイキング

登山の当日になった。
快晴である。

八ヶ岳は美智の住んでいる北杜市の北方にある。

阿川は早朝、車で美智の家へ向かった。

着いて会うと、美智にくすくす笑いをされた。
適当な服と運動靴で来たのだが、
何か変だったのかもしれない。

ここからは美智の方が
ルートをよく知っているので、
美智の車で彼女が運転する。

八ヶ岳の中腹までは車で行ける。

ふもとから登るのは大変だからと美智は言った。
確かにそうだろう。

ちなみに「八ヶ岳」という名前の山は、
実は存在していない。

山梨県北部から長野県に広がる
高峰群をそう呼ぶのであり、
その意味では「八ヶ岳山塊」とでも
言う方が正確かもしれない。
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甲府盆地の暑い夏(18)思わぬ原因

数日後、もう一度バイアグラを試してみた。

結果は同じであった。

阿川は先日受診した、東京の病院に電話をした。
激怒していた。

「本物のバイアグラじゃなくて、
ラムネ菓子でも処方したんじゃないのか」
とでも言って怒鳴りつけるつもりだった。

ところが医師は、落ち着いていた。
「そうなる可能性はあると思っていた」と言う。

医師が言うには、
阿川の受診の数日後に出た血液検査の結果が、
予想以上に悪かった。

悪玉コレステロールの値が「要注意」を越え、
「要治療」のレベルに達していた。

高脂血症である。
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甲府盆地の暑い夏(17)バイアグラの審判

阿川はバイアグラを握りしめ、
甲府行きの電車に乗った。

今日すぐに、この薬を飲んで試してみるつもりだった。

最短時間で着く特急だが、
一刻も早く帰りたい阿川にとっては
鈍行のように遅く思える。 続きを読む 甲府盆地の暑い夏(17)バイアグラの審判

甲府盆地の暑い夏(16)受診

美智と映画に行った日の数日後、
阿川は有給休暇をとって東京に来ていた。

ED治療の病院を受診するためである。

サプリメントや性器にはめるリング
一定の効果を挙げていたが、
充分とは言えなかった。 続きを読む 甲府盆地の暑い夏(16)受診

甲府盆地の暑い夏(15) 映画

kofu15「私とですか!?」

美智は自分を指さしながら言った。

「ええまあ……」

「なんで!?」

 

 

何でと言われても、美智が異様に寂しそうで、阿川と会えなくなるのがそれほど悲しいのかと思ったからだが、さすがにそれを言うのははばかられた。

勘違いだったらこっ恥ずかしい。

「えーとあの……自分もあの映画をたまたま見たかったもので」

「ありがとうございます!!」

阿川はハリーポッターの事を何も知らず、ジブリ映画と思っていたぐらいなのだが、適当なことを口にした。
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甲府盆地の暑い夏(14) 夏の始まり

kofu14梅雨が明けた。
「本州で最も暑い場所」になることも時々ある、甲府盆地の夏が始まる。

建物から外に出ると熱気のかたまりが正面から体にぶつかってきて、すぐに引き返したくなる。
盆地特有の、高い湿気を伴う強烈な暑さ。

もっとも東京都心も、これに負けず劣らず厳しい夏だった。
あっちではいたるところから冷房の室外機の熱風が吹き出しているし、ビル群の反射光もある。
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甲府盆地の暑い夏(13) 半年前までの女

kofu13阿川は久々に、東京に来た。甲府支局の仕事で、中央新聞の本社で資料を探し借りるためだった。

 

本社ビルに入りロビーを歩くと、すれ違う何人かがギョッとして振り返った。阿川は本社では有名人である。今は悪名の方が高い。
閉まろうとするエレベーターに駆け足で入ると、中には先客の女がいた。

 

「あら」

「お」

総務部の菜々緒だった。

阿川が東京にいた時に付き合っていた女の一人である。

この女も阿川が甲府へ異動することが決まってから、離れていった。

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甲府盆地の暑い夏(12)小雨とうたたね

kofu12翌週。今回は豪雨ではなく、小雨が降っていた。

美智のところに原稿をとりに行った阿川は、
またお茶菓子に付き合わされることになった。

話はコラムのこと、
美智の受け持つ授業の生徒のこと、
家族のことなど、あっちこっちに飛んでとりとめもない。

ある意味ばかばかしい、
聞いても聞かなくてもいいような事ばかりだった。
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甲府盆地の暑い夏(11)|二回目の訪問

雨に煙る清里高原が、右手にうっすら見える。
白と緑があいまいに霞むそれは、
晴れた日とはまた違う幻想的な光景だった。

阿川が読者コラムニスト坂井美智のうちを訪ねると、
バタバタと小走りをする音が聞こえた後でドアが開いた。
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