甲府盆地の暑い夏(30)富士との約束

盆地の朝晩の冷え込みが
ますます厳しくなってきた10月の終わりに、
阿川は大スクープを獲得した。

その経緯は、以下のようなものだった。
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甲府盆地の暑い夏(29)収まるべき場所

「こんな夜更けに、すいませんでした」

阿川が言うと、美智は無言で首を振った。

部屋に入ったが、椅子に座ろうとしない。
あごの前で両手を合わせて、
祈るような目で阿川を見つめている。

「本当に……大丈夫なんですか?」

まだ阿川のことを心配している。

一刻も早く、なぜ阿川が来たのか
という説明を聞きたがっているようだった。

仕方なく阿川も、立ったままでいた。
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甲府盆地の暑い夏(28)星空

阿川がそのことを直前でやめたのは、
脳裏に一人の女性の顔が浮かんだからだった。

阿川はスマホを手に取り、番号を押した。

「はい!どうしたんですか阿川さん。
電話してくれるなんて珍しい」

受話器の向こうの笑顔が想像できるような
明るい声で、美智が電話に出た。

ついさっきまでカナダ人女優としていたこと、
しようとしていたことを思うと、
阿川は美智の声を聞くのが後ろめたかった。
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甲府盆地の暑い夏(27)直前逃亡

エリーは阿川の上に馬乗りになったまま、
Tシャツを脱ぐ。

腕を交差させてTシャツの裾を腰から
肩の上までまくり上げる様子は、
ハリウッド映画の1シーンのようだった。
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甲府盆地の暑い夏(26)女優の火遊び

エリーの席の後ろから、その頭を手がぱたんと叩いた。

『こら。まーた火遊びしようとしてる』

いつのまにかマネージャーのサラが
トイレから戻ってきていた。

阿川は残念に思うと同時に少しほっとした。
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甲府盆地の暑い夏(25)女優の誘惑

阿川は女優エリー・ホワイトと対面し、英語で言った。

『今日はよろしくお願いします。ホワイトさん』

『エリーでいいわ。あなたは?』

『アガワです』

『それがファーストネームなの?』

『いえ、下の名前はカンジです』

『OKカンジ。今日はよろしくね』
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甲府盆地の暑い夏(24)カナダの観光大使

チューブの中のペニスに直接は触れられないが、
EDになって以来最高の固さになったという実感がある。

阿川は説明書を読み、さらにポンプをゆっくりと押す。
吸引しすぎると危険らしい。
ペニスが痛くなる前にやめる。

チューブを外し、触ってみる。
やはり固い。

挿入可能だと阿川は思った。

チューブを外すとペニスの根元に、
ゴムのリングがはまるようになっている。
これによりペニスに溜まった血液が戻らない。

阿川の目の前をおおっていた厚い壁にひびが入り、
崩れ、青い空が見えた。
阿川は確かに、その光景を見た。
光が差し込んだ。
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甲府盆地の暑い夏(23)秋空

お盆を過ぎると、甲府盆地に連日現れていた
入道雲もだんだんと姿を見せなくなる。
夜は秋の虫が、リーリーと静かな合唱をし始める。

9月に入ると、勝沼は連日ぶどう狩りの人々であふれる。
ぶどう収穫の時期が終わると、今度は洋ナシが実をつける。

盆地を囲む高山の木々がだんだんと色づき始めた時には、
阿川と美智が二人で会い始めてから3ヵ月が経っていた。
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甲府盆地の暑い夏(22)ぎこちない二人

騒がしい人が一人いなくなった。
とりあえず阿川にとっては、それだけの事だった。

淡々とした日常は続いた。
昼間は新聞社で閑職をこなして過ごし、
私生活ではED状態改善への努力を続けた。
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甲府盆地の暑い夏(21)花火の下

8月もなかばにさしかかり、暑さはピークに達していた。

二人は美智の提案で甲府の花火大会に行くことにした。

今までの野山散策は阿川としては
「健康づくり」という感覚が強かったから、
花火大会は初めてのデートっぽいイベントだった。
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