24話 『造花と涙』

勇一に疑われたのは、
皮肉にもウィバイブ4ではなかった。

それは袖口に入っていた
一枚の小さな花びらだった。

室生に誘われてデートをした植物園

ベンチのそば、風に舞った花びらが
知らぬ間に袖口にまぎれこんでいた。

それを勇一が自宅で偶然に見つけてしまったのだ。

形も色も特徴があり、
普通の家では栽培はできない。

都内でも限られた植物園でしか
見ることのできない亜熱帯の花びらだった。

「一昨日、どこに行ってたの?」

正直に作詞家の先生と植物園を散策したと
打ち明ければよかったが、
瑞樹にはそれが言えなかった。

室生とはもう、
言い訳のできない関係だったから。

「一昨日?…
そうだ、新宿に買い物に出たわ。
新しいあなたのワイシャツが買いたくなって」

事実、植物園でデートをして
室生と別れた帰り道、
瑞樹は夫のワイシャツを買った。

それも今にして思えば、
言い訳じみた行為だったと感じる。

「…どうしたの?」

勇一の目が射るような強さで瑞樹を見つめた。

「何を隠してるの?」

「何も…」

「…そう」

食卓に、
勇一が洗濯機のそばで見つけた花びら
そっと置いた。

「あの日、ちょっと実家のことで相談があって、
何度か君に電話をしたんだけど、
スマホの電源を切ってたよね。

この花、新宿のデパートにでも咲いていたの?」

「…」

「こんなことしたくないけど、
スマホ、見せてもらっていいよね?」

返事を待たずに、
勇一は椅子から立って寝室に歩いていった。

震える足で瑞樹はあとを追いかけた。

カバンの中身がベッドに落とされる音がした。

寝室に入ってみると、
ベッドに座った勇一が瑞樹のスマホを手にして、
メールや電話の履歴を調べていた。

カバンの中身を投げ出された拍子に、
赤い袋は枕のそばに転がっていた。

(どうしよう…)

室生のことを打ち明けようか。
それとも黙っていようか。

念のため、留守電も電話の履歴も
すべて削除しておいた。

けれど赤い袋だけは言い訳ができない。

瑞樹はそっとベッドの端に腰掛け、
勇一が赤い袋に気づくのを待った。

「…? これは?」

スマホをそばに投げ出し、
勇一が赤い袋を手に取った。

「…開けてみて」

チャックをつまみ、口をゆっくり開いてゆく。

勇一がウィバイブ4を手にした。

「…?」

そうだろう、
すぐにはそのカタチの持つ意味もわかるはずがない。

打ち明けて謝ろうと心に決めたら、
少し気持ちが落ち着いた。

瑞樹は袋に残っていたリモコンをつまみ出し、
ボタンを押した。

振動が始まり、勇一が驚いて指を離した。

音もなくシーツの上に落ちたウィバイブ4を、
瑞樹がまた指で拾い上げた。

「…こんなの、買ったの」

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