17話 『ささやかな後悔』

見ておきたかった。

瑞樹は悶え、喘ぎ、
室生の二の腕に爪を立てながら、
顔を右に向けて壁の鏡を見た。

乱れたシーツのベッドの上、
上半身の服を身に着けたままの老人と、
孫ほど年下の女が腰を激しく使って蠢いている。

ぴったりと、
まるで自分たちの肉でもあるかのような感触で、
ウィバイブ4は二人の性器の間に吸いつき、
繊細な振動を広げていた。

「ああっ、もう駄目だっ」

女はそうした生き物だと瑞樹は思う。
自分ばかりではないだろう。

本当に感じている瞬間は、
男の精液を生で流しこんで欲しいと思う。

それはつまり、
孕んでみたいという生き物本来の衝動なのかもしれない。

「ちょうだい、で、
先生の、瑞樹にいっぱいっ!」

室生の腰と尻の間あたりに足首を重ねて、
瑞樹は老人の男根を逃がさないようにした。

けれども室生の力のほうが
女のそれよりも上だった。

シーツについた手に力を入れて、
勢いよく引き抜いた男根。

その亀頭がバネ仕掛けのように瑞樹の顔を睨んで上下に揺れた。

それと放物線を描いた精液が放たれるのが同時だった。

あまり白濁していないそれは
瑞樹のシャツに飛び散り、
喉に少しかかった。

「あ、ごめん…」

「どうして?」

目尻を涙で濡らして、
瑞樹が振り絞ったような声で言った。

「どうして中にくれなかったの?」

「だってさ…」

室生は枕元に手を伸ばして言った。

妊娠したら、大変だから」

一つ、二つ、重ねてティッシュをつまんだ。

瑞樹は頭の上で、
白い花が咲いたような気がした。

浴室でシャツを脱ぎ、
洗面台の水でハンカチを濡らして、
シャツにかかった精液を揉んで拭いた。

老人のそれだからか、
黄色くなるようなことはなかった。

それから全裸になってシャワーを浴びて、
首筋にかかったそれも洗い落とした。

(そうだ、先生の言う通り…)

髪が濡れないように体を洗いながら、
冷静になった瑞樹は心の中で納得した。

あのまま室生の精液を受け入れて、
もしも、万が一に妊娠でもしたら、
それこそ大変なことになってしまう。

堕胎?

そんなことはしたくない。

どんな人生になろうとも、
授かった命を始末なんかしたくはない。

けれどそうなったら、
勇一との結婚生活は終わりを告げることになるだろう。

勇一の母、姉妹たちは大嫌いだ。

自分を孕ませてくれない夫にも腹立たしい気持ちはある。

けれどそれ以外は、勇一に不満はない。

好きで交際を始め、
この人だったらと結婚した相手だ。

自分とは違って、
裏切ったりもしていない夫と別れるのはやはり辛い。

(そう、裏切ったのは私…)

瑞樹は初めて、
室生とセックスをしたことを少し後悔した。

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