11話 ウィバイブ4

karenaihana11アイドルのチケットが届くよりも、
この荷物が届く時間のほうが
瑞樹には不思議な昂揚感があった。

チケットを手にしたあの夏、
友達と出かけたコンサート
少し失望してしまったこともあるかもしれない。

『枯れない花』

たった一曲しかヒット曲がない
老作詞家の男根を蘇らせるために、
自分で選んだアダルトグッズを待つほうが、
よっぽど刺激的な気がした。

それは突然に自宅にやって来た。

まるで化粧品かバッグでも買ったように、
お洒落な包みで瑞樹と勇一が暮らすマンションの
食卓にそれは置かれた。

10センチにも満たないコンパクトなボディは、
まるで絹のような滑らかな手触りだった。

充電用のクレードルはパソコンのUSBに接続可能で、
カバーをつけると、勇一はきっと気づきもしないだろう。

リモコンは振動とレベルのパターンが調節できるようになっていた。

試しにクレードルにセットして、
パソコンとつないで充電を始めた。

ふいに玄関でインターホンが鳴った。

(みっちゃん、今いい?)

同じマンションに住む仲良しの主婦・絵美ちゃんだった。

瑞樹はクレードルのカバーをして、
ドアの鍵をはずした。

「ほんの少しなんだけど、田舎から送ってもらったんで」

滋賀の実家から届いた鮒鮨を届けてくれた。

瑞樹は苦手だが、勇一が大好物だ。

「ありがとう。珈琲飲んでって」

「なんか用事してたんじゃない?」

食卓のパソコンを見て絵美ちゃんが言った。

「ううん、大丈夫。
ネットで買い物しようかなって見てただけだから」

お湯を沸かしながら、
そっと椅子に座った絵美ちゃんを見た。

「なんか買うの?」

パソコンの画面を見ているが、
そばのUSBにつないだクレードルには興味がない様子だ。

これなら勇一にもばれないと思う。

「安いカバンでもあったら一つ欲しいなって思って」

絵美ちゃんと並んで座り、
マウスを握ってお気に入りの通販サイトに画面を移した。

二人でバッグをあれこれと選んだ。

今夜、勇一は鮒鮨を肴に日本酒を飲むだろう。
そうだ、祖母に送ってもらったうどんを茹でることにしよう。

その前に、充電が終わったウィバイブ4を試してみよう。

サイトの説明によるとヴァギナとアナル、
女性一人でも同時に楽しめるように設計されている。

「みっちゃん、最近、なんかあった?」

珈琲を飲みながら、ふいに絵美ちゃんが言った。

「え? 何よいきなり」

「だって、ちょっと雰囲気が違ってきたもの」

「どう違うの?」

「綺麗になったっていうか、色っぽくなった感じ。
うちの旦那も言ってるよ。
瑞樹さん、いい女になってきたなって」

その理由が、不能な元作詞家の老人だと知ったら、
きっと絵美ちゃんは驚くだろう。

そして、珈琲カップのそばにある
クレードルのカバーの中にも理由があると知ったら。

「おんなじだよ」

瑞樹は笑顔で、珈琲カップを指でつまんだ。

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