10話 不思議な玩具

karenaihana10「病院なんかに頼るのは嫌なんだ」

一瞬、デジャヴのようだと瑞樹は思った。

作詞教室から二日後の昼下がり、
夫の勇一と二人で久しぶりに新宿で映画を観に行った日のことだった。

ロビーで上演時間を待っているとき、
二、三歳の女の子を抱いたカップルが向かい側のソフアに座っていた。

「同じ回の上映じゃなきゃいいけど」

「あら、可愛いじゃない」

「騒がれたらたまらないよ」

そんなことがきっかけで、また出産の話しになった。

瑞樹が思いきって、
病院で精子の検査をしようと持ちかけると、
勇一が不機嫌そうに言い返した。

「俺のは正常だよ。
それに、病院なんかに頼るのは嫌なんだ」

(そうだ、先生も同じことを…)

瑞樹はポップコーンを口に運びながら思い出した。

(僕はね、薬に頼るのは嫌なんだ)

室生はそう呟き、そしてアダルトグッズを試してみたいと言った。

そうでもして勃起を回復して、
可能であれば瑞樹を男として抱きたい。

そんな気持ちが嬉しかったし、
同時にそばにいる夫を裏切ることになる不安もあった。

挿入もできない老人とラブホテルで密会する。

それは瑞樹にとって
ぎりぎりの許される火遊びだと思っていたから。

とにかく、瑞樹は室生の提案に乗った。

つまらない映画を観て、
夕飯も外で済ませて帰宅すると、
風呂から上がった勇一は疲れたと言って先にベッドに入った。

瑞樹は食卓でノートパソコンを開き、
ネットで室生と自分にぴったりの玩具を探し始めた。

バイブは違う気がした。
ピンクローターも同じだ。

何か一方的に瑞樹が攻められるのでは意味がない。
もっと二人で楽しめるものがいい。

『快感を二人で分かち合える。
世界で初めてのカップルのためのバイブ』

握ったマウスがそのコピーで止まった。

「…ウィバイブ4」

小さな声でその名を呟き、
人差し指がマウスをクリックした。

アルファベッドのCの形をしたコンパクトなボディに、
掌におさまる可愛いリモコンがついている。

とてもセックスの玩具には見えない。

充電用のクレードルもとてもお洒落だ。

『本体をヴァギナに挿れながら、
同時にペニスを膣に挿入できる…』

ちょっとした衝撃だった。
こんなものがあるなんて瑞樹は知らなかった。

勇一とはラブホテルでバイブを使った程度。

もちろん自分で買った経験もない。

こんなに明るいサイトを使って、
世の中の夫婦や恋人たちはセックスを楽しんでいるのだ。

自宅へ発送してもらうことに一瞬抵抗を感じたが、
購入者のサイトを見て安心をし、
瑞樹は住所をキーで打ち込んだ。

勇一は自宅に届く荷物を自分から開くことはない。

開いたとしても、
夫婦のために買ったと言い張れば信じてくれるだろう。

(あら、これもデジャヴだわ…)

パソコンを閉じるとき、瑞樹はそう思った。

そうだ、中学生の夏だった。
大好きだったアイドルのコンサートチケットを、
親に秘密で買ったときの気持ちと同じだった。

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