6話 砂丘の足跡

karenaihana6「瑞樹、この頃、明るくなったよな」

ネットで拾い読みした面白いニュースを話して聞かせながら、先に吹き出した妻を見て勇一が言った。

「そう? いつもと変わらないけど」

後ろめたい気持ちも少しはあるのだろうか、
それとも室生との変な関係が滑稽で、
モノトーンの生活に小さな刺激を与えてくれているのだろうか。

瑞樹は自分でもよくわからない。

「晩飯はいらないよ。会議が長くなったら泊まるかもしれない」

「あまり飲み過ぎないようにね」

作詞教室のある金曜日に、
勇一の仕事の会議が重なることも都合がよかった。

瑞樹は夫を送り出し、
洗濯と掃除、ネットから光熱費と
祖母への送金を済ませ、
一人で簡単な昼食を取ってから午睡をして、
教室に出かけるために風呂に入り、化粧をした。

下着は室生が好きな赤にした。
好きといっても性欲とは関係なく、
ただ赤い色を老作詞家が喜ぶからだ。

その日の生徒は四人。

元左翼の活動家だった老人と、
スナックを経営している元演歌歌手
室生の作詞のファンだという老婦人、
そして瑞樹だった。

「では、一人づつ読んでもらいましょう」

宿題は『砂丘』というタイトルで歌詞を考えてくることだった。

フォーク調、歌謡曲、演歌と、
みんなが個性的な詞を披露して、
少し寂しい教室だけど、
それなりに笑いもあって盛り上がった。

「では大澤さん」

最後に瑞樹が詞を読んだ。

風に消えゆく足跡に
逆らうように歩き続ける

愛の行方も風まかせ
恨みも砂が埋めてくれる…。

教壇で微笑んでいる室生のことを想って書いた。

室生の裸。
乾燥した、しなびた肌。

ホクロが多くて、男のくせに白くて、
褐色の小さな乳首のまわりから、
白髪のまじった毛が伸びている。

股間の毛にも白髪がある。
だらしなく伸びきった毛の真ん中に、
萎えきった男根がその亀頭を重たげにして項垂れ、太ももに鈴口を押しつけている。

肌の白さとは対照的に男根の色だけは褐色だ。

若い頃、何度も何度も女性の膣にそれを埋め込み、愛汁に浸してこんな色に澱んでしまったに違いない。

瑞樹がそれを握り、
手のひらの温もりを伝えたところで勃起はしない。

亀頭には、何度も洗濯してすっかり色褪せたトランクスの糸屑がこびりついている。

その亀頭に頬ずりしても唇を押しつけても、
握った指で上下にしごいても、
室生の男性は萎えたままだ。

「今はただ 小便だけの 道具かな」

名人と言われた落語家の川柳を声に出して、
室生が自嘲気味に笑った。

そんな室生の諦めが可笑しくて、
瑞樹は萎えた老人の男根を口に含んだ。

フェラチオは好きではない。

勇一は挿入よりも口にくわえさせることを好む、
そのせいかもしれないけれど、
男性を口にふくんで射精させるのは
無意味で屈辱的な行為のような気がしてならない。

けれど室生のは別だった。
口の中、いつまでたっても漲りらない亀頭を
舌で愛撫していることが、
なんだかたまらなく切なく、愛しく、
不思議な幸福感を覚えてしまう。

風に消えゆく足跡に
逆らうように歩き続ける…。

この後も、二人でラブホテルに行くことになっている。

スカートの中、赤いパンティの奥にある花弁が、
少し湿ってくるのを瑞樹は感じていた。

そうだ、生理がまた近いのだ。

One Response to “6話 砂丘の足跡”

  1. […] 「そうだなあ、ちんこは好きだし実際してみて フェラもすごく良かったけれど、違うな」 […]

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