1話 『作り笑い』

車で15分ほど郊外に走った国道沿いに、その商業施設はある。 もとは繊維団地と呼ばれた工場や問屋が集まっていた場所だが、 3年前にシネコンやデパートがいくつも入った巨大なビルに生まれ変わった。 「あとは、何かしら」 姑の聡 […]

2話 『疼く花芯』

この頃は、こういう商業施設のトイレにもシャワー便座が当たり前になった。 瑞樹が入った個室も便座に座ると、ヒーターでお尻を温められる。掃除が終わったばかりでよかった。 個室は清潔で、ペーパーも几帳面に三角に折られている。 […]

3話 『そらす夫』

似た者夫婦とでもいうのだろうか。 勇一の両親は瑞樹の眼にはそう映った。 快活で外向的でいつも溌剌としている。 聡子の趣味はバレーボール、登山、コーラスと多彩だが、聡子の夫、舅の正治もまた、釣りに鉄道写真、ジョギングに剣道 […]

4話 『枯れない花』

知らないうちに あなたに惹かれ 知らないうちに 傷ついた あなたの白い  シャツの染み いつしか    愛しく思い出す 時代遅れの歌詞だった。それが室生のたったひとつのヒット曲だった。 「ヒットチャートに、2時間だけ入っ […]

5話 枯れた男

「僕は歩く成人病だよ」 金曜日ということもあって、 駅の裏手にあるラブホテルはどこも満室だった。 老人とはいえ、 誘われた室生も少しはその気になったのか、 それとも誘った瑞樹から「今日は帰りましょう」 とも言えない雰囲気 […]

6話 砂丘の足跡

「瑞樹、この頃、明るくなったよな」 ネットで拾い読みした面白いニュースを話して聞かせながら、先に吹き出した妻を見て勇一が言った。 「そう? いつもと変わらないけど」 後ろめたい気持ちも少しはあるのだろうか、 それとも室生 […]

7話 厄介な玩具

作詞教室が終わり、 雑居ビルの前で皆と別れた。 「すみません、お先に失礼します」 夫の晩ご飯を作ると嘘をついて、 わざと足早に立ち去った。 電車に乗り、四つ先で私鉄に乗り換え、 二つ目の駅前の喫茶店で室生を待つ。 小一時 […]

9話 玩具の誘惑

「ああっ、もっと、もっとぉぉ!」 花弁からあふれた蜜が、 室生の萎えた男根にからみつき、それを花びらの重ねが摩擦をして、いつしか蜜蝋でも塗りたくったように白く濡れ光っていった。   硬くしこりきった乳首が 室生 […]

10話 不思議な玩具

「病院なんかに頼るのは嫌なんだ」 一瞬、デジャヴのようだと瑞樹は思った。 作詞教室から二日後の昼下がり、 夫の勇一と二人で久しぶりに新宿で映画を観に行った日のことだった。 ロビーで上演時間を待っているとき、 二、三歳の女 […]