fitness5「実は、あまりプライベートな事柄に触れるのも好ましくないので、君には黙っていたが、君の友人のMikaは私の友人でもあるんだよ。それで彼女から3人で夕食を取らないかと連絡があったんだよ。どうかね、来ないか?」

また、これにもビックリ。JBと美佳が知り合いなんて、彼女一言も言わなかったわ。でも、美佳のことだからちゃっかり人脈を広げているのね。

美佳は結婚しないでフリーでお仕事をしているんです。欧州だとポピュラーですが、上流階級専門の個人コンシェルジェ事務所を開いているんです。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、日本のクレジット会社のプラチナデスクサービスはかなり貧弱なんです。またプライベートバンキングも日本では定着していません。

はやい話がお金持ち相手の便利屋さんなんですが、彼女は学生時代から銀座のクラブで内緒のアルバイトをしていて、その頃からかなりのネットワークや人脈を作っていたみたい。たぶん、JBと知り合ったのも最近じゃないかな?

「では、よろこんでご一緒させていただきます」

そう言って、深々とお辞儀をしたら、JBは例の猫みたいな笑顔でお辞儀を返してきたんです。よっぽど機嫌が良いみたい。もしかしてJB、彼女に惚れているのかな?

お化粧を直して役員専用出口に行くとJBが待っていました。会社契約の黒いリムジンが滑る様に車寄せに到着します。ドライバーさんが降りてきてドアを開けてくれます。JBはさすがフランス人。スマートに私を先にして乗り込みます。

車内はゆったりとした空間で運転席とはスモークガラスのパーテーションで仕切られています。今までJBのお供を何度かしましたが、こんなリムジンは初めてです。いつもは黒いアウディ8が役員用カンパニーカーとし支給されているので、それでJB自らハンドルを握って運転しています。外人が苦手としている首都高も平気で飛ばしていますから腕は良いんでしょうね。

内緒ですが、日本語を日常会話程度はしゃべれるJBですが、白バイに捕まった時にフランス語でまくし立てたら、おまわりさんが面倒くさくなったのか、無罪放免だったエピソードを聞いたことがありました。あの顔でフランス語オンリーだったら本当でしょうね。

車はいつの間にかとある高級住宅地を走っています。今日のレストランはこんなところにあるんでしょうか?JBは車の中で眠っているように眼を閉じて流れているジャズに耳を傾けていました。何を考えているのかしら?

やがて車は古びているけどお洒落な洋風の門の前で停まります。直ぐに中から人が出てきました。黒い詰襟の上着に白いパンツ。こちらのお店のスタッフでしょうか。リムジンの扉を開けてくれます。

「Dong Phongへようこそ」

彼は私にそう言うと、同じ言葉を驚くほど上手な発音のフランス語でJBに言います。JBは私の手を取り門の中へエスコートしてくれました。門には「Donng Phong 東風」と木彫りのプレートがあります。ここはベトナム料理のお店らしいです。

門を潜るとメンテナンスの行き届いた洋館が見えます。入り口にはベトナムの民族衣装アオザイを着た女性が立っています。

「こんばんは。ムッシュ ブノワ」とこれもお上手なフランス語で挨拶してくれます。彼女の顔立ちからもしかしたら日本人ではなくてベトナム人かもしれません。

玄関ホールからダイニングまで、室内はアンティーク調の家具で飾られていて素敵な空間が広がっています。私たち以外のお客さんは欧米系の外国人が目立ちます。ここは会員制なのかな?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。