お客様N(29)|最後に頼んだ相手

成田は執務室にいる。

目の前のモニタでは
株価がけっこう激しい値動きをしているのだが、
今それは成田の目に映っていなかった。

成田の完全な性機能回復のために、
きっかけになる事は何か……。

成田は考えた。
一つ思い当たる事はあった。

それは本来手段ではなく、
そもそもこの計画を始めた目的として、
最初から成田が胸に秘めていたことだった。

ドアがあき、玲子がコーヒーを持ってきた。

「玲子」

コーヒーをテーブルに置いて
ドアへ向かおうとする玲子を、
成田は呼び止めた。

「はい」

「計画は……あと一歩のところで、
目標を達成できとらんのじゃ」

「あ……はあ」

エリカとのプレイを開始してからは、
細かい事は玲子に伝えていない。

「正直、行き詰まっとる。
どうしてええんか、分からん。

そこで……頼みがある。
お前に相手をしてほしい……
SMプレイの」

「え!」

玲子はお盆を胸にぎゅっとかかえ、
おびえたような表情をした。

「その……私は
SMの経験がまったくありませんし」

「分かっとる。
エリカさんのようにやる必要はない。
形だけでもええ」

「社長……ご容赦ください。
無理です」

成田は玲子の手を取ろうとしたが、
玲子は払った。

「私は今まで、いろんな面で
社長にご奉仕申し上げてきたと思います。
でも何でもできるというわけではありません」

玲子は振り返ってドアに向かった。

「玲子!」

成田はダッシュして玲子とドアの間に回り込むと、
その場に膝をつき、床に頭をつけた。

「…………!!」

玲子は立ちすくんだ。

成田の土下座など、
もちろん玲子は見た事がない。

「頼む……お願いじゃ。
わしが完全に回復するための手伝いをしてくれ。

正直に言う。
わしがこの計画を始めたんは、
お前とまた、一度だけでもいいから
床を共にしたかったんじゃ」

嘘ではなかった。

多くの場合、
金によって女を得てきた成田は、
恋愛らしい恋愛をしたことがなかった。

EDになって、気がついた。
自分には玲子が必要だということが。

そしてそれが、
単に「必要」という感情以上のものであることも。

成田は土下座をしたまま、
少し顔を上げて言った。

「……愛している」

二人の間を、長い沈黙が流れた。

紅潮した玲子の目の端から、
やがて涙がつつっと流れた。

そしてややうつむき加減で
「……ご協力します」と言った。

言うと同時に
まだ土下座をしている成田の横を
小走りで通り過ぎ、
ドアを閉める瞬間起き上がった成田と
一瞬顔を合わせてから、ドアを閉めた。

パタパタという、玲子が走り去る音が聞こえた。

玲子に成田の想いが届いたかどうかは分からないが、
次のプレイは玲子が協力してくれることが決まった。

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